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仲直り作戦
そうして土曜日。
明日の祭りに向けて、境内には10人程度の人数が集まっていた。白宮家の親戚たちと神主、花乃。その中に七星と由宇も合流した。
そう、これは七星が考えた仲直り作戦だ。
まずは由宇に仲直りの決心をさせ、それなりの場所を用意して2人きりにさせる。由宇が仲直りしたいと言えば、翔太は簡単に頷くだろう。そして祭りの手伝いをして恩に報い、人数を集めたことで自分の働く量は減る。
我ながら完璧だ、と七星は自負した。要所要所は雑だが。
七星は由宇をどうにか説得して、半ば無理矢理連れ出したのだった。最初は渋っていた由宇だったが、バイト代を出せない代わりに『祭りの出店食べ放題』にしてもらえると聞き、やる気を出した。
集まったその中にもう1人、由宇の見知った人物が手を振った。
「おはよー、尾瀬くーん!音石くんも!」
「芽依!? お前も手伝いか?」
「うん、花乃に頼まれてね。巫女さんでお守り売るんだ!」
「芽依の巫女姿……うふふ、楽しみだわ……! でもへんな虫が寄りつかないようによーく見張っとかないとね」
「おお……相変わらずだな、白宮……」
だいたい人数が集まったところで、花乃の父親が仕切り、準備のひと通りの流れを説明した。説明が終わると、慣れている人たちはそれぞれ持ち場に散っていった。その場に残ったのは由宇、七星、芽依、花乃だ。
「いやあ、準備なんて急に頼んじまって悪いな。人手不足だったから、元気な大学生が来てくれて本当にありがたい。君たちには手分けしてもらって……そういや、聞いてた人数と違うな?」
「まだ来てないみたいだね。あいつら、肉体労働にピッタリなんだけど……あっ」
七星が声を上げる。すると、神社の入り口の鳥居の方に人影が見えた。
「ごめんなさい!遅くなりました!」
すでに疲れた顔で頭を下げる玲依と、もうひとり。機嫌の悪そうな翔太が、玲依に引っ張られ連れてこられている。由宇の顔色がすうっと青くなる。
「いや、大丈夫だ。こちらこそ手伝い頼んで悪いな。あ、俺は花乃の父だ。よろしく」
「よろしくお願いします! 俺は花乃ちゃんにお世話になってる、そこにいる芽依の双子の兄です」
「そうか、道理で似てると思ったぜ。2人とも綺麗な顔してんなあ!」
「はは、ありがとうございます」
和気あいあいと話し始める玲依と花乃の父。
そんな中翔太を目の前にしてあからさまに気まずそうな由宇は、七星を盾にし、一瞬合ってしまった視線を物理的に逸らした。自分の背に隠れる由宇。七星は「どうだ」と言わんばかりのドヤ顔を翔太に披露した。
「んじゃ、後から来た2人に説明しとくから、花乃は3人を連れてってくれ。拝殿の準備頼むわ」
「はーい」
「こっちよ」と歩き出す花乃についていく。ひとまず、翔太と一緒に作業することにはならなそうだ。由宇は胸を撫で下ろしながら、隣を歩く七星の腕を掴んだ。
「ななせぇ! お前なあ!」
「わわ」
七星は自分の頰を覆い、ぶりっ子した。
「熱烈だなあ由宇くん♡ 神様の前で俺たちの愛を見せつけちゃう?♡」
「ちがう! 騙したな!? なんで翔太もいるんだよ!」
「騙してないよ。言ってなかっただけー」
「おかげでくっそ気まずいわ!」
由宇が冷や汗をかきながら七星を攻め立てる様子を、翔太は見ていた。由宇に気づかれないように、目で追っているんだろう。七星はそれに気づいていた。
七星は翔太に見せつけるように、由宇に顔を近づけた。
「……由宇くん。そろそろハッキリ言いな。仲直りしたいんだよね?」
「そ、それは……まあ……」
「ここは縁結び神社。仲直りには最適な場所だと思うけど。俺らがこんだけお膳立てしてんだから、あとは由宇くんが頑張らないと」
「俺ら……ってことは、玲依も?」
「そうだよ。言い出したのはあっちのお人好し。俺は最初は協力する気なんてなかった。翔太くん邪魔だもん。由宇くんのそばにいるのは俺だけでいいもんね。でも……」
七星は真剣に眉をひそめ、反応に困って苦い顔をしている由宇を指さす。
「俺だって、いつもの由宇くんがいいから」
「いつもの……?」
「そ。ちょっかいかけても反応悪いんだもん。もっと嫌がって騒いでツッコんでくれないと」
七星は不満そうに口を尖らす。微妙に素直じゃないところが、七星らしい伝え方だと由宇は思う。七星も玲依も心配してくれているんだ。それならば、これに応えないと。
「俺、翔太とちゃんと話したい。仲直りしたい」
「うん、よく言った。作業してれば言えそうなタイミングはあるでしょ。ま、仲直りできなくても俺がいるからね♡ いつでも慰めてあげる♡」
ニヤリと笑う七星に、背中をぽんぽん叩かれる。
「七星……ちょっと優しくなった?」
「……はは、由宇くんが思うなら、そうかもね」
「前は人の嫌がる顔が最高の好物、みたいな感じだったのに」
「ひどーい。俺、そんなドSな極悪人じゃないんですけどぉ。でも、由宇くんが戸惑って嫌がって逃げる姿には興奮するな♡ どこまででも追いかけたくなる♡」
「撤回。やっぱドSだ……」
優しい、なんて、自分とはかけ離れた言葉だと思ってたのに。心がじんわり温まっていくようなふわふわした心地に、七星は顔を綻ばせた。
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