132 / 142

仲直り作戦

 そうして土曜日。  明日の祭りに向けて、境内には10人程度の人数が集まっていた。白宮家の親戚たちと神主、花乃。その中に七星と由宇も合流した。  そう、これは七星が考えた仲直り作戦だ。  まずは由宇に仲直りの決心をさせ、それなりの場所を用意して2人きりにさせる。由宇が仲直りしたいと言えば、翔太は簡単に頷くだろう。そして祭りの手伝いをして恩に報い、人数を集めたことで自分の働く量は減る。  我ながら完璧だ、と七星は自負した。要所要所は雑だが。  七星は由宇をどうにか説得して、半ば無理矢理連れ出したのだった。最初は渋っていた由宇だったが、バイト代を出せない代わりに『祭りの出店食べ放題』にしてもらえると聞き、やる気を出した。  集まったその中にもう1人、由宇の見知った人物が手を振った。 「おはよー、尾瀬くーん!音石くんも!」 「芽依!? お前も手伝いか?」 「うん、花乃に頼まれてね。巫女さんでお守り売るんだ!」 「芽依の巫女姿……うふふ、楽しみだわ……! でもへんな虫が寄りつかないようによーく見張っとかないとね」 「おお……相変わらずだな、白宮……」  だいたい人数が集まったところで、花乃の父親が仕切り、準備のひと通りの流れを説明した。説明が終わると、慣れている人たちはそれぞれ持ち場に散っていった。その場に残ったのは由宇、七星、芽依、花乃だ。 「いやあ、準備なんて急に頼んじまって悪いな。人手不足だったから、元気な大学生が来てくれて本当にありがたい。君たちには手分けしてもらって……そういや、聞いてた人数と違うな?」 「まだ来てないみたいだね。あいつら、肉体労働にピッタリなんだけど……あっ」  七星が声を上げる。すると、神社の入り口の鳥居の方に人影が見えた。 「ごめんなさい!遅くなりました!」  すでに疲れた顔で頭を下げる玲依と、もうひとり。機嫌の悪そうな翔太が、玲依に引っ張られ連れてこられている。由宇の顔色がすうっと青くなる。 「いや、大丈夫だ。こちらこそ手伝い頼んで悪いな。あ、俺は花乃の父だ。よろしく」 「よろしくお願いします! 俺は花乃ちゃんにお世話になってる、そこにいる芽依の双子の兄です」 「そうか、道理で似てると思ったぜ。2人とも綺麗な顔してんなあ!」 「はは、ありがとうございます」  和気あいあいと話し始める玲依と花乃の父。  そんな中翔太を目の前にしてあからさまに気まずそうな由宇は、七星を盾にし、一瞬合ってしまった視線を物理的に逸らした。自分の背に隠れる由宇。七星は「どうだ」と言わんばかりのドヤ顔を翔太に披露した。 「んじゃ、後から来た2人に説明しとくから、花乃は3人を連れてってくれ。拝殿の準備頼むわ」 「はーい」  「こっちよ」と歩き出す花乃についていく。ひとまず、翔太と一緒に作業することにはならなそうだ。由宇は胸を撫で下ろしながら、隣を歩く七星の腕を掴んだ。 「ななせぇ! お前なあ!」 「わわ」  七星は自分の頰を覆い、ぶりっ子した。 「熱烈だなあ由宇くん♡ 神様の前で俺たちの愛を見せつけちゃう?♡」 「ちがう! 騙したな!? なんで翔太もいるんだよ!」 「騙してないよ。言ってなかっただけー」 「おかげでくっそ気まずいわ!」  由宇が冷や汗をかきながら七星を攻め立てる様子を、翔太は見ていた。由宇に気づかれないように、目で追っているんだろう。七星はそれに気づいていた。  七星は翔太に見せつけるように、由宇に顔を近づけた。 「……由宇くん。そろそろハッキリ言いな。仲直りしたいんだよね?」 「そ、それは……まあ……」 「ここは縁結び神社。仲直りには最適な場所だと思うけど。俺らがこんだけお膳立てしてんだから、あとは由宇くんが頑張らないと」 「俺ら……ってことは、玲依も?」 「そうだよ。言い出したのはあっちのお人好し。俺は最初は協力する気なんてなかった。翔太くん邪魔だもん。由宇くんのそばにいるのは俺だけでいいもんね。でも……」  七星は真剣に眉をひそめ、反応に困って苦い顔をしている由宇を指さす。 「俺だって、いつもの由宇くんがいいから」 「いつもの……?」 「そ。ちょっかいかけても反応悪いんだもん。もっと嫌がって騒いでツッコんでくれないと」  七星は不満そうに口を尖らす。微妙に素直じゃないところが、七星らしい伝え方だと由宇は思う。七星も玲依も心配してくれているんだ。それならば、これに応えないと。 「俺、翔太とちゃんと話したい。仲直りしたい」 「うん、よく言った。作業してれば言えそうなタイミングはあるでしょ。ま、仲直りできなくても俺がいるからね♡ いつでも慰めてあげる♡」  ニヤリと笑う七星に、背中をぽんぽん叩かれる。 「七星……ちょっと優しくなった?」 「……はは、由宇くんが思うなら、そうかもね」 「前は人の嫌がる顔が最高の好物、みたいな感じだったのに」 「ひどーい。俺、そんなドSな極悪人じゃないんですけどぉ。でも、由宇くんが戸惑って嫌がって逃げる姿には興奮するな♡ どこまででも追いかけたくなる♡」 「撤回。やっぱドSだ……」  優しい、なんて、自分とはかけ離れた言葉だと思ってたのに。心がじんわり温まっていくようなふわふわした心地に、七星は顔を綻ばせた。

ともだちにシェアしよう!