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決心
拝殿内の準備も終わり、社務所でお守りの準備をしていた由宇たち。そこに入ってきた花乃の父親が、景気良くスーパーの袋を机におろす。
「みんな、休憩にしようぜ! アイス買ってきたからよ!」
アイス!と由宇と芽依の表情が輝いた。2人はいち早くそちらへ向かう。
「ほら、若い奴らから選んでいいぞ」
「やったあ!ありがとうございます! 尾瀬くん、どれにする?」
「ありがとうございます! 種類めっちゃあって迷うな……」
「若い奴の好みは分からんからなあ。全部違うのを買ってきたぞ。いいやつがあればいいが」
色とりどりのアイスは見ているだけで楽しい。遅れて七星と花乃も顔を出す。
「俺はどれでもいーや。由宇くんのオススメどれ?」
「そーだなあ、これとこれとこれも美味いし……」
「いっぱいあるねぇ」
そこで、ひとつのアイスが由宇の目に止まる。モナカのアイスにチョコがはさんであるやつ。翔太の好きなアイスだ。喧嘩なんかしてなかったら、翔太の分も取っておいてやるのに。少し肩を落とすが、切り替えようとすぐに取り繕った。
すると、扉が開いた。
「アイスがあると聞きました!」
意気揚々と入ってくる玲依の後ろに、翔太がいた。由宇はびくりと肩を震わせて、そっと目を逸らす。喧嘩してからこんなに近くにいたことがなかったので、どうすればいいか分からなかった。
その由宇の様子に、翔太が気づかないわけがなかった。
「俺、後でいただきます。向こうで少し休憩してきます」
「兄ちゃん、余り物になるけどいいのか?」
「俺はなんでも大丈夫です。みなさんお先に選んでください」
そのまま部屋を出て行く翔太の後ろ姿を、由宇は悲しげに見つめて黙り込む。こうもあからさまに避けられてしまうと、もう翔太は自分と話したくないのかもしれない、と不安になる。
「由宇……」
「なんでもないよ。玲依、お前はアイスどれにするんだ? 俺はこれにしよっかなー……」
ぎこちない作り笑い。玲依は由宇の手を取った。
「今がチャンスじゃないかな」
「……わかんない。なんか、時間経てば経つほど自信なくなってくる。ごめんな。玲依も七星も。せっかくいろいろしてくれたのに、俺、やっぱ勇気出ないんだ……」
「仲直りできるよ。俺が言うんだから大丈夫。俺を信じて」
「玲依……」
何も疑わない、真っ直ぐなその目を見つめると、本当に大丈夫な気がしてくる。人を信じられなかった由宇は、だんだんと玲依の事を信じられるようになっていた。
いい感じになっている玲依と由宇の間に、七星が割って入った。
「はい、そこまで。アイスが溶けちゃうよ」
七星は、モナカのアイスと、由宇が選んだバニラのカップアイスを手に取る。
「由宇くんと翔太くんの分、冷凍庫に入れさせてもらうから」
「なんで、翔太の分それだって……」
「俺が気づかないわけないでしょ。これ見て翔太くんを思い出したんだろ。あーもう、ムカつく! ほんとなんで俺が協力してんだよ! さっさと仲直りしてきな! じゃあね!」
「あ、音石くん! 冷凍庫の場所案内するわ!」
べぇーっと舌を出して、七星は花乃とともに社務所を後にした。
「なんだよあいつ……アイス、今食べれなくなったじゃん」
はは、と笑い立ち上がった。
「俺、翔太探してくる!」
「うん、行ってらっしゃい!」
「頑張れ尾瀬くん!」
やっと決意が固まった。双子に手を振り返し、その場を後にした。
*
翔太……いねぇ~~っ!!
辺りを探したけど、どこにも見当たらない。この神社けっこう広いし、どっか見てないところがあるのかも……
はあ、と深く息をついた時、裏の山の方向に道が伸びているのに気づいた。参拝ルートと書かれた木の看板がある。
あっちにも神社があるのか……? 一応、見に行ってみるか。
「はぁ……はぁ……」
10分ぐらい歩いた気がする。けっこう山道だった。散歩気分で来るような道ではなかった。さすかに疲れた……
道の終わりには荘厳な神社があった。下にあったほど大きくないけど、手入れされているのが分かる。
でも目的である翔太の姿はなかった。それは残念だけど、せっかく来たんだしお参りしよう、と神社の前に立つ。
「あ、財布置いてきた! お賽銭、なくてもいいかな……ごめんなさい!」
二礼二拍手一礼……
(翔太と仲直りできますように! ……できますように、じゃダメだな……仲直りするために頑張るので、見ててください!)
うん、お参りしたらなんだか勇気をもらえた気がする。やっぱパワースポットってことかな。来てよかった。お賽銭はまた今度持ってきます……!
来た道を戻っていると、ポツン、と雨粒が頬に落ちてきた。
「雨……」
見上げると、いつのまにか空がどんよりと曇っている。今にも大降りになりそうだ。戻らないと。
走り出す間にも雨粒は大きくなる。やべえ、これめっちゃ降り出すやつだ!
すると、小さい神社が視界の端に止まった。来る時はちょうど木で死角になってたのかな。さっきは気づかなかった。
近づくと、狐の像が置いてあった。たぶん通り雨だろうし、止むまでここで雨宿りさせてもらおう。
「すみません。屋根、借ります」
そうして屋根に入った瞬間、バケツをひっくり返したような雨が降り出した。視界も悪くて到底帰れそうにない。音もすごくて、この木造の神社が倒れてしまうんじゃないかと心配になる。
「……神様、怒った……?」
狐の像に睨まれているような気さえしてくる。
少し距離をとって階段の端に座り、膝を抱える。
(ついてない。誰にも言わずにここに来ちゃったな。帰ってこないって、心配されてるかも。玲依も七星も背中押してくれたのに、結局翔太に会えなかったし、迷惑までかけて……何してんだろ、俺)
ーー雨の音に紛れて、バシャバシャと地面を蹴る足音が聞こえた気がした。
「由宇っ……!」
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