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懺悔

「はは、声でか」 「な、え、なん、あ!?!?」  声でかくもなるわ!どういうこと!?驚きでまともな声がでないんですが!?  気恥ずかしそうな、ほんのり赤い、そんな見たことない表情で翔太は顔を覆う。 「あーあ、言っちまった……」 「え、や、あの……!?」 「ほら、すげえドキドキしてる」  手を取られ、翔太の胸に当てがわれた。筋肉のついた肌から、ドクドクと心臓の動きが伝わってくる。次第に驚きから恥ずかしさへと感情がシフトしていき「うわぁッ!!」と慌てて手を引っ込めてしまった。翔太はクスリと笑った。  いつのまにか涙も引っ込んだ。慌てる俺の一挙一動を、翔太はいつもの落ち着いた笑顔で見守ってくる。いや、待て、この慈しみの顔はそういう……? 「えっと、それは、れんあいてきな、意味で!?」 「そういう意味だ」 「は、はつみみなんだけど!?」 「そりゃ初めて言ったからな」  じゃあ、今まで世話焼いてくれてたのも、守ってくれてたのも、全部……!? 「じょ、じょうだんでは……」 「信じてもらえなさそうだったから、キスした」 「っ、た、たしかに、すぐには信じれなかったかもだけど、キスまでしなくてよくない!?」 「……したかったからというのはある」 「急に欲出してきたな!?」 「ずっと思ってたよ。由宇に触れたい、キスしたいって」  翔太の大きい手が、頬を撫で、唇をなぞる。今までそんな触り方しなかったのに、こんな、突然!! 「ま、まてまて、落ち着け! いっかい状況整理させて!」  翔太の堅い胸筋を押すと、大人しく離れてくれた。  とりあえず息を整える。 「ふぅ……えと、俺は翔太がなんにも言ってくれないから、我慢して嫌々俺と一緒にいるんだと思ってたんだけど」 「我慢してたのは、由宇にこの気持ちを伝えることだ」 「そっちぃ!?」  思いっきり勘違いのすれ違いじゃねえか!!  翔太は目を伏せ、ぽつぽつと話し始めた。 「そのことでずっと悩んでたんだ。髙月や音石が由宇の側にいるようになって……嫉妬してた。俺の気持ちは伝えないって決めてたのに、由宇を取られたくなかった。それで気が緩んで少しだけ徹に話して……それを微妙な聞き方したから、勘違いしたんだよな」 「そう……だけど……」  翔太、そんなに悩んでたんだ。俺に言えなかったとしても、隠されてたとしても、気づいてやれなかった。返す言葉に詰まると、翔太はぐしゃぐしゃと俺の頭を撫でた。 「伝えたらお前のこと傷つけると思ってた。幼なじみで友達なのに、恋愛感情で側にいるって知ったら嫌だろ。もう隣にはいられなくなると思って……だから隠してた。ずっと裏切ってて、本当にごめん」 「言えっていったの俺だし……謝んなくても……」  翔太は首を振る。 「俺は由宇にひどいことをしてた。お前のこと、救ってやれなかった」 「は? それどういう意味……」 「もう全部言うよ。このまま由宇が誰のことも好きにならなかったら、俺がずっと由宇のいちばん近くにいられるって思ってた。由宇に近づいてくるやつを牽制して、ひどい時はお前の知らないところでシメたりもした。現状維持するのに必死で、由宇を前に進ませてやれなかった」 「それは、俺自身が変わろうとしてなかったし、このまま平和な毎日でじゅうぶんだと思ってたし、翔太のせいじゃないだろ!」 「でも最近はその考えも変わったんじゃないか? 髙月と関わり始めてから」  そうだ。逃げずに向き合って、誰かに心の内を打ち明けるなんて、今まででは考えられなかった。玲依の考え方を知っていくうちに、玲依のことを思い出すようになって、さっきも……  俺が頷いたのを確認して、翔太はまた話す。 「髙月は出会って数ヶ月でお前の考えを変えた。俺には出来なかった。俺は結局、自分のことしか考えてなかったって気付かされた。劣等感しかなかったよ。それでも諦めきれずに、あいつらの邪魔をしてた。お前の見てないところでもな」  そんなことを思ってたなんて、ひとつも知らなかった。  翔太は顔を上げた。 「お前を守りたかった」 「……っ」 「最初はそれだけだったんだ。なのに、いつの間にか俺は汚れた。酷いだろ? 幻滅したよな。それでも全部、伝えられてよかった。悔いはない」 「悔いはない、って……」  なんだよそれ。お別れみたいだろ。  話を遮る隙もないまま、翔太は立ち上がった。 「いきなりキスしてごめん。最後だから大目に見てくれ。それと、今までありがとう。隣にいられて幸せだった。お前の笑顔がこれからも、ずっと大好きだ、由宇」  振り返った翔太は、目もとを赤くしながら笑っていた。そんな苦しそうな笑顔、初めて見た。  ダメだ。このままじゃ、翔太はどこかに行ってしまう。ここで別れたら、もう二度と会えないような気がした。 「待っ……!」  まだ激しく降っている雨の中に進もうとした腕を、すんでのところで掴んだ。

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