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正々堂々、勝負

 足もとが悪くなった山道を戻る。 「てか翔太、服何とかしないと」 「うーん……なにか貸してもらえるか聞いてみる」 「そうだな」  上半身は脱いでるものの、たぶんズボンも濡れて冷たいだろう。風邪引かないか心配だ。いや、翔太が風邪引いたことってほとんどなかったな。  話していると、バシャバシャと濡れた地面を蹴る足音がふたつ聞こえてきた。翔太は舌打ちをした。 「……もう来たか」  心底嫌そうな翔太の顔を見て、前に視線を戻す。 「由宇くんいたー!」 「由宇! 無事でよかっ……」  玲依と七星が濡れた傘を閉じて、こっちに向かって走ってきていた。その顔には安堵が浮かんでいた。心配かけてしまった。  ごめんって言いかけながら駆け寄ろうとしたが、それは敵わなかった。翔太に後ろからガッチリ抱き寄せられて、身動きができなくなった。 「お前らに由宇は渡さない」  それを目にした玲依と七星は数秒間石のように固まったあと、大声を上げた。遠くまで聞こえそうなほど響いた。 「はあーーーー?!?!?」 「うそっ、えっ、つき、付き合った、付き合ったの!?てかなんで裸、じ、事後、まってまってまっていや自信あるとか言ったけどやっぱキツイって無理終わった人生」 「落ち着け!! つ、付き合ってないから。告白(小声)されて……」 「告白した(語気強め)」  玲依と七星は目を合わせ、再びこっちに向き直る。そしてまた、大声をあげた。 「はぁああああああ!?!?!?」 「告白!!!!???」  七星は顔を真っ赤にして、玲依の胸ぐらを掴んだ。そして力いっぱいに揺らした。 「あんたのせいだぞ、このクソバカお人好し!!だから俺は反対したんだ!!」 「うわあああいちばん恐れてたことが起きた!でもこうしないと由宇は元気にならなかったし!こうするしかなかったよね!?」 「あーもう最っ悪。柄にもなく助けたらこれだよ。もう一生取り持ってやらない。マジムカつく」 「つらい……」  ひとしきり騒いで力尽きたのか、項垂れてしゃがみ込んだ。なんて声をかければいいものか……いやここで俺が何か言うのもなあ……  でも、玲依と七星のおかげで仲直りできたのは事実だ。翔太に体を離してもらって、2人の前にしゃがんだ。 「あのさ、結果的には仲直りできたし……2人のおかげだよ。ありがとな」  顔を上げた玲依は、瞳を潤ませた。 「こ、こちらこそ……(?)久々の由宇の笑顔、沁みる……!」 「由宇くん好きぃ……っ♡」  2人が、わっと飛びついてくる。が、俺は翔太によって軽々持ち上げられた。飛びつくものがなくなった玲依と七星は、ぬかるんだ地面に倒れ込んだ。すげぇ泥だらけだ…… 「~~最っ悪!翔太くんのバカ!服どろどろになった!」 「お前らが飛びついたら由宇がバランス崩すだろ」 「むっかつく……!!」  七星と翔太が睨み合う中、玲依が立ち上がり、頰の泥を拭った。 「まだ終わってない!」  大きな声に全員が注目する。玲依の表情には気合いと決意が見えた。 「付き合ってないなら、俺にも可能性はあるよね!」 「あ、え、ええ~と……」  自分の気持ちが分からない。今すぐになんて決めれない。玲依の真っ直ぐな目に貫かれ、目線の行き場をなくす。視線を彷徨わせていると、ぎゅっと手を握られた。手は泥だらけだった。 「俺、名越くんにも音石にも負けない! 由宇に好きになってもらえるように、これからも頑張るね!」 「ポジティブすぎるだろ……!!」  そしてすぐ、俺は翔太に、玲依は七星に引っ張られて手が離れていく。 「由宇くんとすぐに手ぇ繋ぐの、ほんと何!?」 「由宇の手が汚れただろ」 「ちょ、人をばい菌みたいに言わないでよ!」 「泥で、だ」 「それはごめん」 「ほら由宇、俺の服で拭いていいから」 「そこまでしなくていいって」  雨でぐしょぐしょの服を差し出されても。  泥だらけの七星は、フン、と翔太を嘲笑した。翔太はそれを冷ややかに睨み返す。 「残念でしたー。由宇くんはあんたのことなんて意識してないし、眼中にありませーん。毎日一緒にいたのに、ほんと可哀想」 「10年間由宇に忘れられてたのは誰だったかな」 「ぐっ……告白した途端に言い返してきやがって……!」 「とにかく」  両肩を翔太に掴まれた。 「由宇は誰にも渡さない」 「え、ちょっ……」 「これからは正々堂々、正面からお前らを潰す」 「へぇ……上等。あんたの負け犬ヅラが楽しみだ」 「俺だって負けないよ!」  目の前でバチバチと火花が散る。  ……これ、バトル漫画だったっけ……? 「とりあえず、あとは祭りの準備を終わらせるぞ」  俺の手を取り歩き出す翔太についていく。追って玲依と七星が隣に並んだ。 「なに急にやる気出してんだよ。あんたのせいで、そんな気分じゃないんだけど! 今すぐ帰ってやりたいね」 「どうせお前が仕組んで俺たちを手伝わせたんだろ。気分云々で投げ出すな。俺はこのまま半端な状態で終わらせられない」 「はぁ?それ俺への当てつけ? カッコつけて点数稼ぎですかぁ~~?」 「そうやって他人を蹴落とそうとする時点でお前の点数は上がらないぞ」 「ぐうっ……うるさいうるさーい!!」  両側で繰り広げられる口論。俺と玲依は右に左に首を動かし、目を合わせた。 「音石が話術で押されてる……」 「俺もそれ思った……」

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