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願いの行方

 次の日、4人は縁結び祭りに足を運んだ。  昨日は怒涛の展開になったものの準備は終わり、お祭りは滞りなく行われていた。うまくいっててよかった、と由宇は一安心した。  その由宇の周りでは絶えず口論が飛び交っていた。それでも、『祭りの出店食べ放題』という手伝いの報酬がある。由宇は3人を気にしていてもしょうがない、と割り切って出店を満喫した。  境内を歩いていると、社務所に異様なほどの人だかりができていた。人の隙間から中を覗く。巫女服姿の芽依と花乃、それから花乃の母親がてんやわんやとしていた。 「わ、すげえ人気だな。みんなお守り欲しいんだ」 「うーん、女の子はそうかもだけど、男の大半は芽依目当てな気がする。芽依、顔はいいからねぇ」 「お前同じ顔してるだろ!」  悪気なく自画自賛をする玲依にツッコミをいれていると、中にいる芽依と目があった。芽依はジェスチャーで何かを伝えようとしている。由宇を指さして手招きをし、他3人を指さしてからは×のマークを作った。 「……俺だけ来いってことか?」 「かな? なんか急ぎっぽいね」 「妹ちゃん抜けがけぇ?」 「あの女……」 「……とりあえず行ってくる!」  また口論になりそうな予感。巻き込まれる前に由宇は話を切り上げて社務所の裏口へまわった。  人から見えないように障子の影から芽依に声をかける。それに気づいた芽依は、花乃に任せて由宇のところへパタパタとやってきた。 「ごめんね~呼んじゃって!」 「お疲れ、大変そうだな。どうした?」 「あの3人呼ぶとさらに大変そうだからね……えっと、これ神主さんから!」  渡された袋の中には、絵馬が3つ入っていた。 「絵馬?」 「みんなにお礼だって。私も貰ったよ。それは尾瀬くんと玲依と音石くんの分。名越くんには昨日渡したらしいから。いやぁ、渡せてよかったよ~。見ての通り抜けられなくて! 主に私のせいだけど!」  芽依は明るく笑った。その笑顔から疲労は感じられない。 「俺もなんか手伝おうか?」 「ありがとー!でも大丈夫。尾瀬くんは玲依とお祭り楽しんできてよ! じゃーね!」  元気よく、芽依は持ち場に戻っていった。 「玲依と、って……」  翔太も七星もいて、それどころじゃないんだよなあ……  無意識に玲依のことを頭に浮かべながら、由宇は社務所を後にした。 *  さっそく絵馬を書こうという話になり、4人は絵馬所にやってきた。由宇はペンを手に取ったものの、絵馬を前にして首を捻った。目の前の翔太がじっと見つめてくるのも、やりづらい原因だった。 (うーん、いざ何かを書くってなったら迷うな。つーか、翔太の視線が痛いし……ん?)  隣でなにやら一生懸命文字を書く玲依が気になり、ちらっと覗く。玲依の絵馬は、びっしりと文字が連なって真っ黒になっていた。由宇は思わず声を上げた。 「字ぃちっさ!!」 「お願い、いっぱいあって書ききれないよね」 「お、おう……」  字が小さすぎてよく読めないが、自分の名前と料理に関する単語を見つけて、由宇は苦笑いをするしかなかった。  反対側から七星も覗き込む。 「うわ、強欲すぎ。きもい」 「シンプルに悪口! お願いは1つまで、とか決まりないし大丈夫だよ。音石のは……だいたい予想つくけど」  七星はふふん、とドヤ顔をしながら、絵馬を見せつける。 『大好きな人の全てを手に入れたい♡』  そう書かれた絵馬を見た由宇と玲依は「うわぁ……」と声を上げた。悪寒までしてくる。 「こういうのはシンプルなのがいちばん。誰かさんみたいに多すぎると、神さまがどれ叶えていいか分かんないもんね」 「いいだろ別に!」  翔太は顰めっ面で七星の絵馬に手を伸ばす。 「その絵馬寄越せ。割る」 「ここに罰当たりがいま~~す。翔太くんだって似たようなこと書いてんでしょ。てゆーか、俺より酷いんじゃない?」 「無駄口叩いてると、見捨てられるぞ。神様にな」 「くそが……」  絵馬には『平和な生活』って書こう……  由宇はそう誓い、ペンを走らせた。  書き終えて顔を上げる。 「翔太は先に貰ったんだろ? もう書いた?」 「昨日な」 「へー、何書いた? 気になる」 「……秘密」 「えーー!」  気になって口を尖らす由宇の頭をぽんぽんと撫で、翔太は優しく微笑む。 「書けたんなら掛けて次行くぞ。昨日の神社にお賽銭入れるって言ってただろ」 「そうだった! 行こう! ……って、手は繋がなくていいから!」 「おいコラ、勝手に抜けがけしようとすんな!」 「えっ、ちょ、まだ俺書けてないんだけど! 待って~~!!」 『これから先も大切な人の笑顔を 一番近くで守りたい』  たくさんの絵馬の中。  丁寧に書かれた翔太の絵馬が風に揺られて音を立てた。

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