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第7話

*** 「やはり僕を見つけてくれましたね」  振り返った彼は海からの風を受けて少し髪を乱して言った。  ここはホテルの敷地内にある小高い丘に設えられた野外チャペル。天気が良ければ光輝く海が二人の門出を祝福する場所だ。今は空に重たい雲が広がり、その色を映した海も濁ったように暗く、まるで彼の心を顕しているかのようだった。 「どうしてここだとわかりました?」 「以前、このチャペルにご案内したとき、海の景色が気に入ったと仰られていたので」 「貴方は本当に僕を理解しているんですね」  ふふっと笑った彼に続く言葉が見つからない。しかし海を望む十字架を背にした彼が、とても穏やかな笑みを私に向けている事実に息を飲んだ。 「杉山さん、ごめんなさい。あんなに親身になってくださったのに、僕はそれを台無しにしてしまった」 「何を言うんです。高橋様のせいでは……」 「いえ、僕のせいです。だって、あの男をここに呼んだのは僕ですから」  驚いた私に、 「不倫の挙げ句に妊娠までしてしまった彼女を早く嫁がせようと、身内もしがらみも無い僕が選ばれました。知っていましたか? 僕が彼女と会ったのは貴方が彼女と顔を会わせた回数と大して変わらない。でもそれでも良いかと思ったんです。今まで恋人どころか人を好きになったこともない平凡な僕が将来を約束された結婚ができるなら、と。だけど……」  彼は海をしばらく見つめ、何かを決心したようにひとつ息をついたあと、真剣な眼差しで私に言った。 「好きな人が現れてしまった。それを認識した途端、この結婚が堪らなく苦痛になった。だから、あの男に彼女を引き取ってもらいました」 「好きな人、とは……」  自分の声が掠れている。彼はそんな私に優しく微笑んでさらりと言った。 「僕はあれくらいの酒では正体を無くしたりしませんよ、杉山さん」  ――ああ、この人はあの夜のことを……。

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