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第3話 凪①

 小学生の頃の話をしよう。  普通、双子や同じ年の兄弟は違うクラスになるという決まりがあるらしいけれど、僕たちの通う小学校は一学年一クラスの小さな学校だった。  当然晴空と僕は同じクラス。双子だから何かと比較されやすい。勉強は晴空よりは少し出来ていたけど、小学生の頃はそんなものよりもスポーツが出来る方が同級生は一目おいてくれる。  足が速かったり、サッカーが上手い、ドッジボールが上手い、お笑い芸人の真似が上手い、ケンカが強い。人気になる男子はこういった子達だ。  晴空は…全部兼ね備えてた。全部僕にはない部分。女子も男子も憧れの眼差しで、自然に晴空の周りには人が集まっていた。  取り残された僕が1人、席で本でも読もうかとランドセルから読みかけの本を出そうとすると、決まってかけられた言葉。 「凪も来いよ」 別に1人で本を読むのも好きだからそれで良かった。けど晴空の言う事は絶対だし、なにより晴空の近くは心地好かった。こんなにも違うのに。  本当は1つの生命として産まれるはずだったからなのかな。晴空の近くにいれば、クラスメイトとも話せた。自分から話題を振るのは苦手な僕に話しかけてくれた。  それが晴空がいるからだと気づいたのは、晴空が早退した日。風邪ではない。校庭の桜の木に登って遊んでた晴空が落ちたんだ。上手く着地したように見えたけれど、左腕の向きがおかしくて、いつも元気な晴空が痛さで叫んだ。慌てて駆け寄った僕は何にも出来なくて、小さく晴空の名前を呼ぶだけだった。 晴空と仲の良い、サッカー少年団に入ってるらしい友達2人が先生を呼んできてくれて、その間職員室では親に連絡をとり、すぐに母が迎えに来てくれた。 「晴空の双子の片割れの癖に役立たず」集まってた人だかりから聞こえた気がした声。本当の事だと思った。僕が生み出した幻聴だとしても、僕は自分の事を役立たずだと思っていた。  その日晴空が帰ってから、誰も僕に話しかける者はいなかった。給食中も、いつも通り向かい合わせの班になって食べたけど、僕なんていないかのように周りの友達と話すクラスメイト達。  あぁ、晴空がいなきゃ僕は空気みたいな、透明人間みたいな存在なんだ。悲しいとは思わなかった。むしろ小学生のうちに気づけてラッキーだった。それだけ。  自分にあった生き方をすればいい、透明人間みたいに誰にも気づかれない。けれど晴空だけは気づいてくれるんだ。

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