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第8話 発熱②

 目が覚めて頭を動かしたら聞こえた晴空の声。 「凪?」 「晴空…隣にいてくれたんだ」 「うん。見にきてみたら、凪熱そうに息苦しそうにしてたから心配で。どうした?」 「うん。喉乾いたから水飲んで、下着取り替えようと思って」 「お前熱あんだから横になってな。俺が持ってくるから」 「ん。ありがとう」 電気を点けて晴空が部屋を出ていった。隣に、いてくれたんだ。眠ってしまっていた自分にガッカリした。音量大きくして、イヤホンで音楽でも聴いてれば眠らなくて済んだのかな。いつ来たんだろう。僕が寝てすぐ?ずっといてくれた?来たばかり?  晴空が横になっていた場所を触ると温かい。来たばかりではなさそうだ。寝てしまった自分を呪いたい気持ちが大きくなっていく。冷えピタ貼ってくれたのも晴空?頭撫でてくれた?横ですぐ眠ったの?寝てる僕を見てたの?   あぁ、僕はおかしいのかもしれない。   自分で望んだことなのに。いざそうなると、自分の中に沸き上がる晴空への大きな気持ちで押し潰されそうになる。おかしい。変だ。  双子の兄にこんな気持ち。同じ顔のはずなのに。頼りがいがあって、カッコよく見えて、周りにいる誰よりも輝いて見えて、好、きだ、って気持ちは兄弟間の愛情だ。そうに違いない。晴空、はると、お兄ちゃん、兄、双子、家族、兄、晴空…。 「凪、どうした?」 ペットボトルのスポーツドリンク、着替えを脇に抱え、洗面器を持った晴空が部屋に入ってきていた。 「あっ、、ごめん、熱でボーっとしてたかな」 「今拭いてやるから、横になってていいからな」 「えっ、自分で拭くよ」 「風邪っぴきは遠慮すんなって」 ニッと笑って見せた顔にどくんと心臓の音がした。  前開きのパジャマを晴空の指がボタンを外していく。熱い。心臓が徐々に速度をあげていく。音が晴空まで聞こえてしまわないか心配だ。ここまでしてくれる想像はしてなかった。 「凪…肌白いよな~。俺こんななのに」 「どうせ病弱だからね」 「そんなこと言ってないじゃん。褒めてんだよ。キレイだって!あっ…何言ってんだろうな俺」 「なにそれ…」  ほんとになんだよそれ。肌褒められただけだって。気にしちゃダメだ、うっかり口から出ただけ。晴空の手が焦ってるように見えるのも気のせい、浅黒い顔が赤くみえるのも気のせい、自分に都合良く見えすぎ考えすぎ。 なんだよ都合良くって、別に兄から褒められただけじゃん。 「ほら、袖に腕いれて」 「ん。ありがと」 「晴空水分とって」 ストローをさしたペットボトル。口元にストローをさしだされ横になったまま飲む。晴空って、僕の事甘やかしすぎじゃないかな。もう風邪ばっかひいてた小さな弟じゃないのに。嬉しい癖にそんなことを考える。  側にいてほしくてわざとひいた風邪。この手を離すのが、もっと成長して離れるのが怖くなるよ。 「もういいか?ほら、凪もうちょい場所あけてよ」 「ん」 もぞもぞと、さも当然のように同じ布団の入ってくる晴空。160センチを少し過ぎた僕たちに1つのベッドは狭くなっていたけれど、居心地が良かった。自分より低い体温を右側に感じて寝るのがとても。さっき緊張したのが嘘のように心臓の音も普通に戻って、僕はいつしかぐっすりと眠っていた。   隣で晴空が、苦しげな目をして暗闇の中こっちを見つめている事なんて気づかずに。暗い顔をした晴空の顔は、鏡写しのように自分とそっくりだって事にも、気づいていなかった。

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