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第12話 来訪者
「近江貴嶺(おうえたかみね)」
僕たちよりはずっと年上、お母さんたちよりはやや年下に見えるその男はそう名乗った。
何もない日曜日。親は早く起きて朝食を食べ、各々ゴルフの素振りや読書やら、趣味を楽しんでいたらしい。僕たち二人はまだ夢の中。小学校から中学校に上がって、まだ慣れない生活の疲れをとるべく、朝寝坊を楽しんでいた。
そんな幸せなまどろみの中、起こしに来た母の顔はいつもと別人のように重苦しい、暗い雰囲気を漂わせていた。僕らも交えて話さなきゃならないらしい。初めましてな親戚と。
僕らは親戚という存在を知らなかった。
叔父さん、叔母さん、いとこって何?よく晴空の友達が話していた「従兄弟と遊んだ」「従兄弟が泊まりにきた」
なんでも、親同士が兄弟姉妹な所の子供同士をそう呼ぶらしいが、そんな存在は生まれてこのかた会ったことなかったし、いると聞いた事もなかった。
「お正月は毎年おじぃちゃんちに行くんだ」
おじぃちゃん?おばぁちゃん?僕たちにそんな存在がいるなんて考えた事もなかった。
世の中にはそんな存在、血縁がいるということを知っても、別に、お母さんがいてお父さんがいて、そして晴空がいれば十分だった。じっくり話しあったわけでもないけど、晴空もそう思ってたみたいだった。
そんな僕たちの前に突然現れた、近江貴嶺という従兄弟。何しに来たんだろう。母の感じからして、良い知らせではない予感しかしなかった。
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