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第15話 束の間の日常
晴空がジョギングから帰ってきて、家族で朝食を食べ晴空と登校した。昨日の夜の出来事があったのに、朝からいつも通り起きて朝食の用意をしてくれたいた母に感謝の気持ちを込めつつ「ごちそうさま」と言うと、なんだかホッとした顔で笑ってくれたので、昨日の事は夢だったのかしれないと一瞬だけ思えた。
一瞬だけ。僕の手が温かいのは気のせいじゃないし、身体の周りが白い薄布のようなもので覆われてるのも気のせいじゃない。おまけに、外に出たらあちこちにこの世のものではない何かが見える。不思議と、怖いものだとは思わない。昨日きたあの人の方がずっと怖い。僕を家族から、晴空から引き離そうとしてる人。
また来るんだろうか。確実に来るとしか思えない。気がつくと、力が入っていた両手の爪が手のひらに段々とくい込んでいて、痛かった。
「凪」
おまけに、晴空はずっとこちらを伺いながら歩いていたようで、両手を掴まれた。
「昨日の事考えてたんだろ。考えない方が無理だよな。分かるけど、こんなに、手が真っ赤になるほどに1人で考えこまないでくれよ。俺じゃ相談相手には足りないのかもしれないけど、聞く事くらいしか出来ないけど…」
「うん。ありがとね」
「それだけ?」
「だって、今は考えがまとまらないんだ。自分が何を悩んでるのかも。ただ…ただ思うのは、僕は家族と離れるのは嫌だなって事」
「凪…。そうだよな。凪は俺の弟でまだまだ面倒見なきゃならないもんな。お兄ちゃんが必要だよな。うんうん」
明るく僕に言ってるようで自分に言いきかせてる晴空は、漠然と不安なんだと思う。お兄ちゃんぶったって、双子なんだから僕と同じ年だもんね。
校門を通りすぎ、クラスが近くなる。
「帰り、心配だから一緒に帰るから、図書室ででも待ってろよ」
「大丈夫だよ。あの人怪我しただろうから、また来るとしてもそんなすぐには来ないだろうし」
「それでも。分からないだろ。待ってろって」
「…うん」
頷いた凪の長めの髪が揺れた。俺が凪の盾になれれば良いのに。
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