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第16話 ナニカと傷と
あの人が来てから一週間。何事もなく過ぎた。
両親からもあの時の話題は出ないし、親戚の話も出なかった。僕は、自分から聞くのも悪い気がして、知るのも怖い気がして、何も聞けなかった。
その間分かったことと言えば、僕に見えている人外の何かは、別に危害を加えてこないということ。
多分、怨みを持った霊的な存在もいて、それは他の何かよりもどす黒い色をしている。普通は透明に透き通っていて、様々な形をしている。人型だったり動物のようだったり、分からない形だったり。あれはやはり生きていた者が死んだ後の姿なんだろうか。
もし、死んでもあのような姿でいられるのだとしたら、僕は死んで晴空の近くにいたい。死んでも一緒にいたい。死んだら自由に気持ちを隠さず側にいられるじゃないか。
でも、例えばあれらに意識があったとしたら、その内恋人が出来た晴空も見なくちゃならないんだ。わがまま言うけどそれは嫌だ。
話しかけてあれらの話を聞いてみたい気もした。僕にそこまでの勇気が出たら大したものだと思う。
登下校を晴空と一緒に過ごすのは楽しかった。昔に戻ったみたいだ。先日起きた出来事は現実ではなく、登下校をする仲の良い双子ってだけが現実なら良いのに。それは僕の空想の中だけだった。
あの人が、下校途中に現れたんだ。
「よぉ」
派手なシャツにハーフパンツのその人は所々白い包帯を巻いているようだった。貴嶺さん。忘れたくても覚えてしまった名前。
「何だよお前、凪にやられてもう来ないかと思ったのに」
晴空なりの強がりだろう。僕たちはあの人が来る事に怯えていたんだから。
「話があるなら僕だけにしてください」
僕は僕なりに晴空を守りたかった。
先日の力の出し方は分からなかったけど、ハッタリで使えるフリをして貴嶺さんに引いてもらえないかと少しだけ思った。多分あの人は引かないんだろうな。子供の浅はかな考えなど見抜いてしまうんだろう。晴空さえ遠ざかってくれればいいんだ。
「やめろよ凪。お前だけが背負う事ないんだから。本家?になんて行かせない」
晴空が掴んできた腕が痛かった。
「ふん。美しい兄弟愛のつもりか。下らない。凪。今日はお前に用じゃないんだ」
穏やかな日だったのに、突然風が吹いた。
「いっ……てっ…」
「晴空!」
貴嶺さんの周りのモヤが濃くなって頭に危険信号が走った瞬間、風が吹いて晴空から悲鳴が聞こえた。見るとジャージの脛の部分が切れていて血が出てるのも見える。
「凪。お前に攻撃しても多分効かないよな。精神的に兄の方攻撃しないと心折れないよな。今日はこれだけにしてやるからよく考えとけよ。お前は馬鹿じゃないはずだ」
それだけ言うと、去っていった。
「行かせない…凪行くな…」
痛みで踞りながら発した晴空の気持ち。
去り際に「決心がついたら夜外に出ろ」と言っていったのも聞こえてしまった。聞こえなければ良かったのに。晴空の怪我の手当てをして、隣で治っていくのを見届けられれば…。
でもあの人は晴空の怪我が治る前にまたやってくるんだろう。
僕たちは、無力だったんだ。
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