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第17話 別れのキス

 傷口の痛みのせいで少しだけ片足を引き摺る晴空に肩を貸しながら歩いた。肩を貸し密着状態は隣で歩いてる時とは全く違ってドキドキした。心臓の音が届いてしまうんじゃないかと考えると、一層速くなり、速くなった心音にまでドキドキする悪循環だった。  帰ってからソファーに座ってもらって脛に出来た傷の手当てをした。かまいたちで肌が切れるとこんな感じになるのかもと思わせられる傷が横に三本ついていた。  小さい頃擦り傷が出来ると「いたいのとんでけ!」って晴空が舐めて治そうとしてくれた事が何度もある。駆け回ってた晴空よりも鈍くさくてよく転んでは小さな傷を作っていた僕。  座ってる晴空の足元に膝まずいて足を手にとる。そのまま一番上の傷から舐めだした。 「凪?!」  晴空が慌ててるみたいだけどね、おまじないだよ。痛いの痛いの飛んでけ。上の傷、真ん中の傷、下の傷順番に丹念に舐める。血は止まってたから、肌に流れた血も舐めたら綺麗に傷が三本だけになった。日焼けした足に赤い線三本。不謹慎だけど綺麗だと思ってしまった。 「凪?」 「おまじないだよ。痛いの痛いの飛んでけ。小さい頃よくしてくれたでしょ?」 「そうだけど、もう小さくないし……」 ふふっ。口の中でもごもご何か言ってる。  大好きだよ、晴空、お兄ちゃん、僕の片割れであり鏡のような存在。鏡というには性格は正反対かな。だからこんなにも惹かれるのかもね。  母が帰ってきて、父が帰ってきて、夕飯の時に今日あった事を話した。晴空は家の中ではハーフパンツで過ごす事が多いから、隠していても傷がばれる。貴嶺さんの名前を出すと複雑そうな顔をする二人。昔何かしらあったんだろうか。でも僕は聞いてしまうのが怖くて、父と母が可哀想で聞けない。実家のことは本当は思い出したくないんだろうね。  その話はすぐに切り上げて、晴空と二人で下校中にするような楽しくて他愛もない話をした。買い食いして美味しかった駄菓子の話とかね。普段より僕が饒舌だったかもしれない。  夜は晴空の隣で寝た。晴空が寝入るまで沢山話した。幼い頃の事、学校の事、これからの事。貴嶺さんの話はしなかった。  ぐっすりと晴空が寝入ったのを確認してからお別れのキスをした。唇に触れるだけ。お別れの為の神聖な儀式のようだなと思った。微かに乾燥した唇。1つだけ出来たニキビのある頬にも触れた。僕の大好きな晴空と大好きな家族に手出しはさせない。パジャマのままそおっと家を出た。  さようなら僕の家。お父さん、お母さん。 晴空。僕の事はその内忘れてね、僕は忘れないでいるから。眩しいくらいの月明かりと街灯の光の中。貴嶺さんが待っていた。 「よぉ、やっぱり来たな」 「あなたに着いていくよ」

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