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第18話 島

 そこは良く言えば自然に恵まれた島だった。島だからそこまで開拓する必要もないだけなんだろう。立派な船着き場に着いたと思ったら獣道のような山の中を歩かされた。 車道もあったけれどそちらを通らないのはこの獣道の方が目的地に近いんだろう。  僕は家を出てきたパジャマ姿にスニーカーという軽装のまま歩き、枝が邪魔だったりクモの巣に触れてしまうのが嫌で貴嶺さんが歩いた道を忠実に辿った。暗い中山道を歩く経験は初めてで、目の前の貴嶺さんに掴まりたい気持ちになったけど、一生懸命耐えた。最後に触った晴空の感触を出来るだけ忘れたくなかったから。  道が開けた。ほんの十数分の事だったと思う。とてつもなく長い道のりに思えたけど。 そこには、僕が住んでいた町並みとは違う和風な家が並んでいた。  家々は広々とした日本家屋ばかりで、洋風和風ごちゃ混ぜの住宅街を見慣れていた僕にとってそれは新鮮だった。立派なヘリポートもあった。立派な船着き場にヘリポート、そして日本家屋。ここは日本なんだろうけど、今までいた日本とは違う。そんな気がしてきた。  貴嶺さんに連れられていったのは、その中でも一際大きな屋敷。門があり、その中に平屋だての建家が連なり裏は山があるようだった。  船に揺られること多分一時間以上。深夜に見るその家はなんだか恐ろしい場所に思えた。船の中で貴嶺さんの話を聞いたせいもあったかもしれない。 「凪。今からお前が住むのは、お前の母方の祖母の家だ。島では誰も逆らえない、一族の長だ。俺もあのばぁさんこえぇんだ。おばぁ様って呼べよ」 貴嶺さんがふざけた調子で話してくれるのは少しだけ救いだった。怖い人だと思ってたはずなのに不思議だ。今から僕はこの人に頼るしかないからだろうか。 「にしてもお前さぁ、着の身着のままパジャマ一枚で来るとは俺も思わなかったぜ。案外肝座ってんのか?それならその方がいい。好きな漫画とかぬいぐるみとか無かったのかよ?」 「好きなもの……晴空。晴空とお父さんお母さん連れていけないんだから何もいらない」 「へぇ……。そっか。お前、親に性格似てるのな」 「お父さんとお母さんと仲良かったの?」 「後々な…言う機会があるかもしれないし俺の気が向かないかもしれないし…。お前に力なんてなけりゃ良かったのにな」 貴嶺さんが寂しそうに笑ってくれたのは、僕の中のお父さんを見てたのか、お母さんを見てたのかもしれない。だって、この人はそんなに僕自信に興味はない。僕を連れてかなきゃならないだけだって、ナニカたちが教えてくれてる。船に乗って海に出てから、力が少しだけ強くなった気がする。  この声は、今まで聞こえてなかったもの。

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