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第30話 永遠さんのバイト

 永遠さんの部屋に行く事が多くなった。  学校のカバンのまま行って泊まる日もあった。凪の話をしているうちに、最初誤魔化したというか誤解を産んだままだった事も打ち明けだした。凪は家出したわけじゃなく、親の親の家、本家に連れていかれただろうこと。  人間以外のモノが視えるから本家に行く羽目になった事も。  とにかく話しやすくて、永遠さんに打ち明けてると、自分の中でつかえてた魚の骨が取れていくようだった。永遠さんと話してる時は気が晴れた。  凪を連れ戻しに行ってくれなかった親よりも、今ではずっと信頼してる存在だった。こういうのも依存て呼ぶんだろうか。  永遠さんといると少しずつ心が安定していき、学校も凪がいた頃みたいに普通に通えたし、成績も落ち着いた。  そんな状態だったから、親は俺が夜出かけたり外泊する事に対して何も言わなかった。目の下のクマが薄くなったのも一因の一つだろう。それでも鏡を見ると凪を思い出し、無性に会いたくなった。声変わりもしたんだろうけど、あの声で「晴空」と呼んで欲しかった。  そんな数ヶ月を過ごしたある日の事だった。たまにはバイトに着いてくるか?と永遠さんに誘われたのは。  永遠さんのバイトのある日はお邪魔しないルールになっていたし、バイトの話は話題に上がらない。  何日と何日はバイトだからと、直近の予定を永遠さんから告げられるだけで自分からは尋ねないようにしてたので、未だになんのバイトをしてるかは知らなかった。 「僕も本業はまだ大学生って身の上だからね。学業の妨げにならない程度にね。ただし、実入りはいいから自分で学費払えてるんだ。ほら、親いないって話したじゃん?」 確かそう話してくれたと思う。着いていってお邪魔にならないようなバイトなら、見に行ってみたいと思った。  連絡をとって、行く旨を話すと、○○駅に20時と言われた。その時間に駅で待っててみると、永遠さんと、永遠さんよりはるかに年上の男性が1人。 「ねっ、可愛い子だって言ったでしょ?」 「驚いた。本当だったとはね」 「晴空、見学OK貰ったから着いておいで。社会勉強だよ」 永遠さんは、その男性の腕に自分の腕を絡みつけて、少し上目遣いに甘えたように喋ってる。男性も男性で、そうされるのが嬉しいようだ。もしかして……と思い始めた。  着いた場所は、うっすら考えてしまっていた、所謂ラブホテルという場所だった。  このまま着いて行っていいのかという戸惑いと好奇心。迷いながらも、二人が乗り込んだエレベーターに足を踏み入れてしまった。  初めて入ったので他と同じようなものなのか分からないけれど、真ん中に大きめのベッドがあって、周りは鏡だらけ、天井も鏡だった。普段とは違う異次元空間に入りこんでしまったようだった。 「晴空。僕シャワー入ってくるからそこのソファー座ってなよ。青田さん、晴空が可愛いからって手出しちゃダメですからね」 「分かってるって。そんな事したら次から永遠くん指名出来なくなるんだろ」 「そっ。分かってますね~」  永遠さんは透けるガラスのようなドアの向こうにシャワーを浴びに行った。この男性は青田さんていうのか…。 「晴空くんだったよね?このバイトに興味があるの?」  「えっ、いえ、今日は永遠さんにバイト着いてくる?って誘われただけで、何のバイトか分からず来てしまって…」 「そうだったんだ。何にせよ、永遠くんのテクニック凄いよ。見といて損はないかも。興奮しちゃうかもね」 この時間がこの世界から逃げ出す最後のチャンスだったと思う。でも俺は興味を持ってしまったんだ。男の永遠さんがどうやって男に抱かれるのか。

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