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第36話 知らせ

 貴嶺さんからその事を聞いたのは、彼が本土から帰ってきた夕方の事だった。  最近ちょくちょく本土への用事があって出掛けている貴嶺さんに、時間があれば僕の家族の様子も見てきてほしいと頼んでおいたのだ。  『晴空が多分人を殺して逃げてる』  行方不明だ。  実家では晴空が帰ってきていないとしか分からず、お父さんとお母さんでほぼ寝ずに晴空を探してから捜索願いを出したらしい。二人とも目の下にクマが出き、お母さんなんて、綺麗な黒髪が何ヵ所もまとまった白髪になってしまっていたそうだ。  捜索願いを出した早朝、刑事が二人訪ねてきて、「お宅の息子さんの恋人らしき人が絞殺されている。息子さんが重要参考人としてあがっています。お話をお聞かせください」 という内容の事を言われたそう。その翌日顔を洗っていてふと鏡を見たら白髪の方が多くなってて驚いたいう話。  やっぱり僕ら双子は離れちゃいけなかったんだ。僕にとって晴空が必要なように、晴空にとっても僕が必要だったんだ。だって元々二人で1つの魂だったはずなんだから。それにしても、晴空に恋人…。年上の男の人と聞いた。最初何かの間違いかと思い、本当に男の人なのか繰り返し聞いた。  貴嶺さんは「間違いなく男と言っていた。恋人らしいってのは、その被害者の肛門に精子がついていて、お前らの年頃の少年が最近その人のアパート付近でよく目撃されていたってだけだ。晴空って決まったわけじゃない。おい、凪、大丈夫か?俺の声聞こえてるか?」  晴空の恋人が男の人。肛門を使ってセックスをしていた。ならば僕にもチャンスがあったんじゃないか。いやいや、僕たちは双子で兄弟だから、そんなチャンスは…いや、ここの家系は近親相姦をしてでも一族を絶やしたくなかった家系なんだ。  元々子供が出来ない僕と晴空が結ばれたって大した罪になんてならないんだ、きっと。もう一族が狂ってるんだから。近くにいて、結ばれる努力をしても良かったんだ。そんな見ず知らずの赤の他人に晴空を取られるくらいなら、僕が、僕が…。 「凪!こっちを見ろ!」  両肩が痛い。貴嶺さんがずっと強い力で掴んで揺さぶってたようだ。こんな事態になって、なんでこっちを見ろなんて言うの?放っておいてよ。 「凪、俺と凪で今から本土に行けるように掛け合ってくるから待ってろ!荷物があったらまとめとけよ」  貴嶺さんが出ていき、また1人の空間に戻った部屋。おばぁ様と美智さんの所に話に行ったんだ。僕と、多分貴嶺さんも一緒に本土に着いてきてくれる為の話。  なんで?なんで自分の大事な、一番大事な晴空が人生一番のピンチみたいな事態に陥ってる時に、僕は船かヘリコプターを使わなきゃ晴空の所へ行けないような場所にいるんだろう。  なんで晴空のピンチなのに、本土に行く許可を得る必要があるんだろう。なんで晴空と僕は離ればなれになったんだっけ。  あぁ、こんな力のせいだ。  こんな一族のせいだ。こんな近親相姦まで繰り返して金儲けをしてた一族のせいだ。  こんな一族がなければ、こんな所に産まれなければ、普通の双子として産まれてれば、寄り添ってあげられたのに。こんな事になる前にお父さんとお母さんは晴空の変化に気づかなかったの?晴空が人なんて殺すわけないじゃん。そんな風になる前に変化があったはずでしょ?なんでなんでなんでなんでなんでなんで僕はここにいるんだ。なんでどうして晴空の近くにいない。分からないなんでこんな事になった。あぁ、自分からここに来たんだ。バカだ、バカな事をした、結局僕がバカだった、そしてこの一族が、こんな一族の血が受け継がれてなければ良かったんだ、なんでなんでなんでなんでもう嫌だ、戻れ、時間を戻してくれよ、嫌だ嫌だ嫌だなんで…………  上でドン!と爆発のような音がして、この今いる部屋に自分の意識が戻ってきた感覚になった。  

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