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第16話
朝食を済ませた俺はお母さんの食材の買い物に付き添ったり、掃除や洗濯と慌ただしい。
「瑞希ちゃん、そろそろお茶にしましょう」
「でもまだトイレとお風呂掃除が」
「いいのいいの。私が後でやっておくわ。本当に瑞希ちゃんは働きものねえ」
お母さんは俺を笑顔で見つめ、キッチンに立ち、お茶を入れてくれた。
洋風のダイニングテーブルではなく、畳のテーブルに緑茶と羊羹。
「さあ、足を崩して、ゆっくりしましょ」
とは言われても、俺はスカートを履いた脚を正座。
「頂きます、お母さん」
お茶も羊羹もとても上品な味だ。きっと高い。
「美味しい...」
「でしょ?すぐに完売してしまうのだけど、頂きものなの。私もここの和菓子がとても気に入っていて」
お母さんは嬉しそうで、本当に仲の良い嫁と姑みたいだ。
「瑞希ちゃんは甘いものはお好き?」
「嫌いではないです」
「本当に!?好きなスイーツのお店があるの!今度、一緒に行きましょっ」
「はい、是非」
俺も微笑んだ。
「本当に嬉しいわ。娘が出来たみたい!」
お茶を啜りながらロングヘアのウィッグを付けた髪を後ろで纏め、メイクを施した俺を優しい眼差しで見つめる。
俺もなんだか嬉しい。
「ただいま」
見ると40代だろうか、高級そうなスーツ姿の男性。
「おかえりなさい、あなた。随分、早かったのね」
「オペが中止になったから会議だけで終わったんでな」
会話から、ヒロのお父さんだと気づいた。
視線が俺に落ちる。
「この子か、ヒロの恋人とやらは」
「あ、瑞希です。は、はじめまして」
威厳のある雰囲気に俺は正座を整え、頭を下げた。
「すっかり女になったな、見違えた」
お父さんは冷静にそう言うと、
「ヒロと付き合う、ここで共に暮らす為にも、色々と話しておかないといけないな、後で私の部屋に来なさい」
そう言い残すとお父さんは自室へ向かう為に背中を向けた。
緊張を解すように俺はお茶を啜った。
「気難しい人だけど、よろしくね、瑞希ちゃん」
「はい、お母さん」
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