16 / 69

第16話

朝食を済ませた俺はお母さんの食材の買い物に付き添ったり、掃除や洗濯と慌ただしい。 「瑞希ちゃん、そろそろお茶にしましょう」 「でもまだトイレとお風呂掃除が」 「いいのいいの。私が後でやっておくわ。本当に瑞希ちゃんは働きものねえ」 お母さんは俺を笑顔で見つめ、キッチンに立ち、お茶を入れてくれた。 洋風のダイニングテーブルではなく、畳のテーブルに緑茶と羊羹。 「さあ、足を崩して、ゆっくりしましょ」 とは言われても、俺はスカートを履いた脚を正座。 「頂きます、お母さん」 お茶も羊羹もとても上品な味だ。きっと高い。 「美味しい...」 「でしょ?すぐに完売してしまうのだけど、頂きものなの。私もここの和菓子がとても気に入っていて」 お母さんは嬉しそうで、本当に仲の良い嫁と姑みたいだ。 「瑞希ちゃんは甘いものはお好き?」 「嫌いではないです」 「本当に!?好きなスイーツのお店があるの!今度、一緒に行きましょっ」 「はい、是非」 俺も微笑んだ。 「本当に嬉しいわ。娘が出来たみたい!」 お茶を啜りながらロングヘアのウィッグを付けた髪を後ろで纏め、メイクを施した俺を優しい眼差しで見つめる。 俺もなんだか嬉しい。 「ただいま」 見ると40代だろうか、高級そうなスーツ姿の男性。 「おかえりなさい、あなた。随分、早かったのね」 「オペが中止になったから会議だけで終わったんでな」 会話から、ヒロのお父さんだと気づいた。 視線が俺に落ちる。 「この子か、ヒロの恋人とやらは」 「あ、瑞希です。は、はじめまして」 威厳のある雰囲気に俺は正座を整え、頭を下げた。 「すっかり女になったな、見違えた」 お父さんは冷静にそう言うと、 「ヒロと付き合う、ここで共に暮らす為にも、色々と話しておかないといけないな、後で私の部屋に来なさい」 そう言い残すとお父さんは自室へ向かう為に背中を向けた。 緊張を解すように俺はお茶を啜った。 「気難しい人だけど、よろしくね、瑞希ちゃん」 「はい、お母さん」

ともだちにシェアしよう!