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逢瀬(3)
ステファンが怪訝そうに眉を寄せる。フランは構わず手を動かし続けた。ジレのボタンを全て外し終わると、今度はいそいそとステファンの上着に手をかけた。
「フラン、何をしている……」
「レンナルトの家のランドリーメイドの人が……」
「ランドリーメイド……?」
「お洗濯をしちゃったの」
「それは、するだろうな。それがランドリーメイドの仕事だ」
フランは顔を上げ、わかってないというように首を振った。
「上着とジレ」
「ジレがどうかしたのか?」
「脱いで。シャツも」
「なに?」
襟元を飾るレースのタイに手を伸ばし、真剣な顔で「全部、脱いで」と訴えた。ステファンは黒い目を見開き、ついでに口もぽかんと開けていた。そんな顔をしても、なんだかカッコよくて、フランはちょっとだけ笑ってしまった。
そうしながらも、手は止めなかった。せっせとタイをほどいてゆく。
(これだけあれば……)
ジレの匂いをくんくん嗅いで、うん、と頷く。ステファンの服を丸ごと手に入れて、枕のまわりに並べるのだ。そうすれば、あと少しくらいは我慢できる。
本当は出来ないけれど、頑張る。
けれど、シャツの襟元に指を伸ばそうとすると、ステファンがフランの手首を掴んだ。
「俺の服を脱がせて、どうするつもりだ? 夜伽でもするのか?」
「夜伽……?」
腰を引き寄せられて広い胸に包み込まれる。髪と額にキスを落とされて、ステファンを見上げた。
次には、いきなり深いキスで口腔を犯された。
「ん……」
フランの耳を軽く噛んでステファンが囁く。
「あんな手紙をもらって、俺がどんな気持ちだったかわかるか」
「え、でも、ちゃんと書けてたって……」
黙れとばかりに再び唇を塞がれた。ベッドに倒されて丈の長い寝巻を捲りあげられる。下には何もつけていないからフランはあっという間に、ステファンよりも先に裸になってしまった。
「ステファン……」
抗議するように名前を呼ぶと、ステファンはわかっていると言うように手早く自分の服を脱いでいった。ヒートの時と、一緒にお風呂に入った時、何度か見たはずの裸体が目の前に現れる。初めて目にしたような衝撃を受けて、フランの心臓は大きく跳ねあがった。
「そろそろ『処理』も必要な頃だな」
ステファンはどこか悪い顔で笑うと、まだ小さくてやわらかかったフランの中心に指を這わせる。
「あ……」
ビクンと全身が震える。軽く握られただけなのに、もどかしいような熱が一気に下腹部に集まっていった。
「ステファン……」
「今夜は、俺の『処理』も頼もうか」
「え……」
細い手首を掴まれて、ぐいっとその場所に導かれた。初めて握らされたステファンの雄は、フランの手のひらでは心もとなくなるような質量と熱を示していて、思わず、ひゅっと息をのんでしまう。
「しっかり握れ」
「う……」
できない。大きすぎる。そんな言葉を口にする前に、また唇を塞がれてしまう。肌と肌を重ねるように引き寄せられて、嬉しさと切なさで胸がいっぱいになった。ステファンのものから手を離して、広い背中に両手を回す。
咎められるかと思ったが、ステファンもフランをきつく抱いてくれた。
ステファン、ステファンと心の中で名前を呼び続ける。ずっとそばにいて、と願う。このままどこにも行かないでと訴えるように、四肢を絡めて必死にしがみついた。
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