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悪童の流儀(2)※
我が物顔のジェイムズが、当然とばかりに唇を重ねてくる。吐息を封じ込めるようにぴたりと合わされた唇の隙間から、熱く濡れた舌を差し入れられ、自分のそれに絡められたところで、レジナルドは我に返った。慌てて伸し掛かる男の肩を押しやり、口づけから逃れる。
離れた二人の間に透明な糸が光る濃厚な口づけに、濡れた唇を手の甲で拭いながら、レジナルドはジェイムズを睨みつけた。
「どいてくれ、ジェイムズ。冗談が過ぎるぞ」
素直に唇を離したジェイムズは、しかしレジナルドに乗り上げたままどこうとしない。身を捩って逃れようとすると、阻止するように肩を寝台 に強く押し付けられた。怒りを込めて見上げれば、眉を寄せてこちらを見つめてくる。
「抵抗する気か」
「あたりまえだ!」
「抵抗するなら縛るが、それでもいいか」
「し、縛る?」
自分の言葉を証明するように、体重を掛けてレジナルドを押さえ込むと、ジェイムズは寝台の上で皺くちゃになっていたガウンから腰紐を引き抜いた。光沢ある天鵞絨 の優美な拘束具をレジナルドに見せつけながら、噛んで含めるように言い渡す。
「持てる手練手管を尽くし、懇切丁寧に可愛がって誠心誠意君を啼かせてやろうというのに、私の愛を一滴残らず注ごうというのに、その邪魔となる何者をも許すわけがないだろう」
「だからそれをご免こうむりたいんだけど……」
「駄目だ、熱を煽ったのは君だ。責任を取ってもらう」
すげなく却下した唇が、再び近づいてくる。逃れようと慌てて顔を逸らし、両手でジェイムズの顔を押し止 めた。昼食を一緒に取るくらいなら許容範囲だが、それ以上の悪童の戯れに付き合う気はない。
懸命にもがく体に合意を見出すことを諦めたのか、ジェイムズはやれやれと肩を竦めると、一瞬腰を浮かし、下に押さえ付けていた体をひっくり返した。手荒に反転させられた視界にレジナルドがうろたえている間に、その両手首をまとめ、手際よく後ろ手に腰紐を巻き付ける。
「では望みどおり」
「ジェイムズ!」
ぎりぎりと手加減なく縛り上げられる手首に痛みが走る。いくらなめらかな天鵞絨でも、固く縛められれば荒縄と変わりはない。容赦のない仕打ちにジェイムズの本気を感じ、密かに怯えながらも態度には出さず、レジナルドは鋭く抗議した。
「誰も縛ってくれなんて言ってない!」
「無防備に男を煽るとどうなるか、君は学んだ方がいい。それに、これは君の逃げ道だ。これから何が起こっても、縛られた君は逃げられない。不可抗力だったと、すべて私のせいにできる」
「…一体、何を言ってるんだ?」
「愛する者を追い詰めるのは、趣味ではないということだ」
「そんな心遣い、わたしが感謝するとでも?」
ふざけた物言いに、頭に血が上った。
一方的に押し付けて、無理矢理自由を奪っておいて、何が愛だ。レジナルドがよく知る愛は、周囲のすべてを不幸にした陋劣 なものだが、今度のこれも引けを取らないろくでもなさだ。
体の自由が利かないなら、せめて目と目を合わせて湧き上がる怒りを見せつけたいのに、うつ伏せに押し付けられた視界には、敷布 の白が広がるばかりだった。
唐突にうなじから腰までを服越しになぞられ、びくりと体が跳ねた。腕の中に捕らえた獲物を、仕留める前に獣が見分するような仕草だ。自分の置かれた状況に、あらためて顔から血が引いていく。ジェイムズは本気で、この男の体で、男の欲望を満たそうとしているのだ。
腰を高く掲げられ、両膝を大きく広げられた。無様に開いた両脚の中に体を割り込ませたジェイムズを前に、レジナルドにはもう歯向かう術がない。屈辱に震えるレジナルドのベルトを外し、トラウザーズと下履きを引きずり下ろしながら、ジェイムズは傲慢に言い放った。
「感謝するさ。何故なら私の与える快楽にのたうちまわり、濡れて私の名を呼び哀願を重ねることになるのは、君だからだ――レジィ」
「やっ……!」
突然熱い手に性器を包まれ、息を呑んだ。手の中の獲物をゆるゆると扱きながら、レジナルドの顔の横に片手をつき、ジェイムズが覆いかぶさってくる。耳を舐めながら甘く囁かれた愛称に、全身の皮膚が泡立った。
『館 』の監督生 に就任して以来、ジェイムズはずっと「監督生」と呼び掛けてきた。監督生と問題児。それが二人の関係だったからだ。
それを一気に、ごく親しい者しか呼ばない――今ではエリオットしか呼ばないその名に変え、二人をつなぐものの名すらも変えようとしている。ジェイムズが、体だけではなく、レジナルドの心をも欲していることを理解し、初めて怒りとは違う何か――今は困惑と呼ぶのが一番近い何かが湧き上がった。
その困惑を深めるように、ジェイムズの手淫は激しくなっていく。
「いや、だっ……離せ、ジェイムズ!」
「離していいのか?君のここは、私の手を喜んでいるようだが。ほら――もう濡れ始めた」
剥き出しにした蜜口をゆるゆると撫で擦る指の腹が、ぷくりぷくりと湧き出す雫を塗り広げ、淫らな水音を作り出す。やさしいその動きに腰をびくつかせ、羞恥にまみれながらも零れそうな声を我慢していると、その頑なさを責めるように、蜜口に爪を立てぐりぐりと抉られた。
「あああっ……」
鋭い痛みと対を成す快感に、悲鳴とも嬌声ともつかぬものが口をついた。
(何て声を出してるんだ、わたしは…!)
顔を青ざめつつ赤らめつつ、自らを罵る。
うつ伏せにされているせいで、ジェイムズの顔を見ることができなかったことは、レジナルドにとって幸いだった。レジナルドの婀娜な声に、ジェイムズは最高の玩具を手に入れた悪童そのものの、悪辣な笑みを浮かべていたからだ。
耳や首筋、うなじを存分に舐め回し、レジナルドが身を震わせたところは強く吸い上げ、ジェイムズは着々と獲物に所有の痕を残していく。
仕事にかまけて恋人を作らず、ろくに自慰もしないで放置されていた体は、レジナルドが自覚する以上に性的な刺激に飢えていた。一番弱いところを甘やかすような直截な手技に、何とか声は堪えても、んぅ、くぅん、と鼻を鳴らして悦んでいることを凌辱者に伝えてしまう。
レジナルドの体の声に満足したように、上半身を起こすと、ジェイムズはいよいよ本気で秘処を攻略にかかった。竿を愛撫するだけではなく、残った片手で根元の双珠を揉み上げ、こりこりと転がしては、強情な唇からかすかな喘ぎ声を搾り取る。
立ち上る心地よさは、泥の罠のようだ。いじられている秘処からじわじわと、獲物が身動きできないように全身に絡みつき搦めとる。その仄暗い恐ろしさに、無駄だと知っても抗わずにはいられない。
「はぁっ、あぁっ……もう、やめ……ジェイムズ、離せ!」
「ここで止めたり離したりできる男がいたら、そいつは男ではないぞ、レジィ」
聞き分けのない子供をなだめるように、背後で苦笑する気配がする。
そうして弾ける寸前まで嬲られた性器は、びしょびしょに濡れそぼち、その先端から先走りが敷布に滴って、ジェイムズの両手をも十分に濡らしていた。
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