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さらなる誤解(1)※
無惨に引き裂かれた体は、鍛錬を重ねた剣士であろうと関係なく、半病人のような日々を梟に強いた。寝台の上で体を丸め、寝返りを打つのもつらく眉をひそめて耐える梟に付き添い、細やかにその面倒を見たのは、意外にもこの事態を引き起こした元凶だった。
寝台に半身を起こした梟を胸元に抱きとめて甲斐甲斐しく食事の世話をし、少しの振動も傷に響く体を慎重に浴室へ運んで、裂けた秘処を丁寧に洗い清め薬を塗り込む。手酷い弄虐に散らされた蕾は治療の指先にも竦んだが、痛みを和らげるためと巧みに前を扱かれ、立ち上る快楽に治療の痛みも誤魔化された。
一人で歩き回るのは無理でも、食事くらい自分で摂れるし、治療の一環とはいえ他人に奥まった場所を探られる恥辱は耐えがたい。それに何度制止しても、痛みを緩和させるために梟を昂ぶらせた蜻蛉は、治療の後、必ず精を搾るのだ。
冷静な相手に毎日達する様を見られる羞恥は、今も神聖騎士の戒律に縛られる梟の精神をじくじくと苛んだ。しかし体は本調子から程遠く、抵抗するには蜻蛉の力は強靭で、何よりも男がもたらした凄まじい苦痛と暴力の記憶が、梟から抗う力を奪っていた。
そうして殆ど会話もないまま、過保護なまでの看護に慣れ、悪霊から守るためと同じ寝台で自分を抱き込んで眠る男の腕に慣れ――最初はまた酷い目に遭わされるのかと全身を固くして怯えたが――二週間ほど経ってようやく傷が癒え、そろそろ剣の鍛錬を始めようかという頃。
蜻蛉は再び梟を抱いた。
夜中の発熱を心配して蜻蛉が泊り込んだ夜は、悪霊の呪いで感覚が麻痺し体の自由は利かなかったが、背の傷を嬲られることはなかった。それを知った蜻蛉は、発熱の心配がなくなっても、毎晩梟を胸の中に包み込んで眠るようになった。そのぬくもりに、子供の頃夜の闇が怖くて兄の寝台にもぐり込み、やさしくあやされるようにその腕に包まれて眠った幸せな記憶を揺さぶられーー復讐の手段として男を強姦するような変態に兄の面影を重ねるなどとんでもない、と慌てて打ち消した。
そしてやはり蜻蛉は、あたたかくやさしいばかりだった兄とは違ったのだ。
明日から剣の鍛錬を再開しようと思いながら眠りについた梟は、背後から自分を抱き締める腕が熱を帯び、寝台に押さえつける形で体を返されたことに気づいて、ぼんやりと目を覚ました。
「な、に…蜻蛉…?」
その頃にはもう、自分を抱き締める腕を兄や椿と間違えることもないほど蜻蛉の気配に慣らされていて、覚醒しきらないままその名を呼んで問い掛けた。律儀に悪霊は訪れているらしく、不自由な体はぴくりともしない。
諦めのため息を零した唇に、しっとりと熱い蜻蛉のそれが重なった。
「やっと私の腕を覚えたな」
視覚も聴覚も覚束ない中、それでも自分を見下ろす男が嬉しそうなのは気のせいだろうか。
蜻蛉の様子も行動もその理由に見当がつかず、梟は混乱する。
復讐は果たされたのではないのか。だから蜻蛉はこの二週間、青龍探しの職務遂行のために梟を労わり、その回復に手を貸したのではないのか。
ようやく傷の癒えた梟から夜着を剥ぎ、くたりと指先一つ動かせない体を、何故再び蹂躙しようというのか。
文字通り身を引き裂いた激痛の記憶が甦り、梟の顔から血の気が引いていく。
「蜻蛉、いやだ…!」
震える哀願を、男の熱い唇が封じる。
蜻蛉は、荒々しく梟を蹂躙した男とは別人のように、色を失った梟をこれ以上怯えさせないよう細心の注意を払いながら、その体を拓いた。
塞いだ唇に深く舌を差し込み、梟のそれに絡ませると、付け根から擦り上げるように愛撫する。舌先で口蓋をくすぐり、その甘い感触に、くふん、と鼻を鳴らしてしまった梟を目元をゆるめて見やると、口の端を笑みの形に引き上げた。肌の感触を楽しむように、肩を掴んでいた右手をするすると下に滑らせ、親指で蜜口を可愛がる形で梟の雄芯をやさしく包む。
「んぅ!」
途端に跳ね上がる腰をなだめるように、蜻蛉の手が動き出した。親指の腹で蜜口をくすぐりながら、手の平で包んだ雄芯をゆるゆると扱き上げる。焦らすことのない直截な手技に、元神聖騎士の初心な体は抗う術を持たない。ほどなく先端を撫でる指先から、いやらしい水音が零れ始めた。
「ふ、濡れてきたな…感じやすい体だ」
くちゅ、ぬちゅ、と耳を打つ淫らな音と揶揄する言葉に、羞恥と屈辱がこみ上げるが、動けない梟にはどうすることもできない。
連日治療のたびに強いられた吐精を、治療でもないのに強いられている。体を引き裂いた二週間前の強姦とは違う、しかし同じように梟の意志を無視した行為は、梟をただただ混乱に落とし込んだ。
「そんなに悶えて…それほど私の手が心地良いか…?」
「ち、違……蜻蛉、やめ……っ!」
悲痛な否定の言葉も、蜻蛉には届かない。嘘を|吐《つ》くなと言わんばかりに雄芯を扱く手を強められ、ひっと喉が鳴った。
(どうして、蜻蛉…!)
これは、復讐の続きなのか。
男としての矜持をへし折り、体を引き裂き屈服させたあの強姦では、まだ足りないのか。
今夜また別の形で梟を打ち据え、嘲笑い、従えようというのか。
暗闇に呑まれた悪霊憑きの部屋に、その問いの答えは見つからない。
絶望に沈む梟を取り残したまま、蜻蛉の愛撫は止まなかった。
やがて先端から溢れた先走りの雫は、蜻蛉の手で雄芯全体に塗り広げられ、それでもなお溢れて滴り、後ろの蕾をも濡らし始める。そこまで梟を追い詰めると、蜻蛉は梟の腰を持ち上げ、その下に枕をいくつも詰め込んだ。高く上がった腰の間に体を進め、梟の両脚をむごい形に広げる。
男の目の前に秘処をすべて晒す形になり、さらなる屈辱に震える梟にかまうことなく、蜻蛉はたっぷりと濡れた人差し指でぬかるんだ梟の蕾に触れ、やわやわと揉み込んだ。そしてゆっくりと蕾を開き、用意していた小瓶の口を宛がうと、とろみのある生ぬるい液体をとくとくと注ぎ込む。
「ひっ!!」
内襞を舐めるように濡らし、奥へ奥へと流れ込むその異様な感触に、梟は鋭く喉を鳴らした。そこは排泄器官であり、何かを流し込まれる場所ではない。生理的にあり得ない感覚に、全身が怖気立った。しかもその流れを追うように、筋張った硬い指がつぷりと差し入れられ、液体を染み込ませるように中をぬちぬちと練り上げられる。
「あうっ!……あっ、ああ、あ……やめっ……!」
衝撃と異物感は凄まじかった。
硬直した体がじっとりと汗ばみ、涙がこみ上げたが、蜻蛉は奥を探る指を止めない。右手で肉筒をやさしく穿ちながら、左手で濡れそぼった雄芯を擦り上げる。
前から湧き上がる快感と、後ろを抉られる嫌悪感と。
同時に生じる異質な感覚は、梟の中で交わり反発し、しかし最後に異形の悦楽へと昇華された。初めて知る強烈な感覚の絡まりに、耐えきれず体が安楽な逃げ道に飛びついたのだ。
「あ、あぁ……んっ、んぅ!……はぁ、はっ……あんっ」
「声が甘くなってきたな…後ろも快くなってきたか?」
笑いの形に空気を振わせ、蜻蛉も甘く囁く。
そうして後ろを練り上げる指は二本に増え、三本に増え、最初は狭く硬かった蕾と肉筒がすっかり蕩けるまで続けられた。梟が息も絶え絶えに、時折甘い哀願のような喘ぎをこぼすようになるまで辛抱強く待ってから、蜻蛉は猛った自身で慎重に貫いた。
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