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躾(2)※
たっぷりと軟膏を掬った指先を、椿は梟の花蕾に押し当て揉み込む。前夜の行為で綻んでいたそこは、じれったいような刺激にひくりと震えた。それを確認した指先はぬるりと花蕾をくぐり、そのままゆっくり奥まで埋め込まれた。
蜻蛉に何度も擦り上げられ腫れぼったくなっている内襞は、やさしく探る指の動きを嫌がることなくねっとりと絡みつく。その従順さに気がついた椿は、奥を探る指を浅いところまで戻すと、立ち上がった花茎をさらに押し上げるように、その根元のしこりををぐりぐりと抉った。
「あぁんっ!」
途端に、鋭く甘い声を放って梟の体が跳ねる。悲痛にひそめられていた眉間がゆるみ、明らかに快楽を得ている風情だ。
(ここは躾が済んでいるということかい。ならば花筒の中と奥から責めてやるのもいいが…薔薇では傷がつきそうだ。それは次のお楽しみかね)
冷静な調教師の顔で判断し、椿は花筒を拵えることに専念する。
目の前の痴態に惑わされることなく、顔色一つ変えずに花筒を雄刀を収める鞘へと変貌させる椿とは反対に、梟は何をされるのかわからない恐怖に震えていた。情けなく忌々しいことだが、中を広げられることには慣れてしまっている。調教師でなくても行う準備なのだと、図らずも学ばされている。
花街一の業師である椿相手にーーこのままで済まされるはずがない。
中をほぐす指は二本、三本と増え、そのたびにたっぷりと軟膏を塗り付けられた。しまいには溶けた軟膏に濡れそぼった花蕾は両手を添えて広げられ――冷たく丸い何かが入口に押し当てられると、冷酷な指先がぐぐっと届く限りの奥まで押し込んだ。
「ひうぅっ、……椿、何を……!」
「珊瑚の珠さ、こんなに大きい珠で上質の物はなかなかないんだよ。熱く蕩けた中で味わうと、硬くて冷たくて、たまらなく悦いだろう?」
無慈悲な仕打ちに体は竦むのに、やわらかくほぐされた内襞は未知の感覚を興味深く探るように蠢き、締めつける。そのせいで珠の形と大きさをはっきりと感じてしまい、吸いつくように絡む内襞が拾い上げる異質な硬さと冷たさに、本能的な怯えから梟は身も世もなく泣きじゃくった。
花茎に施された弄虐だけで十分痛めつけられているのに、これ以上は無理だ。耐えられない!
「いやだ、椿……取って……これ、取って……!」
「よく食んで存分に味わったかい?じゃあ自分で出してごらん」
「な、に……?」
「おまえの花筒は初めての玩具に喜んでいるだろう?もっと楽しく遊べば、おまえはうんとよくなる。さあ、いやらしく襞を操って珠を出すんだよ」
「そんなの、無理っ」
「おや、まだ花茎を虐められたいのかい」
ためらいなく伸ばされた椿の手が薔薇に届く前に、梟は必死に首を振った。
内襞の力だけでみっしりと重い珊瑚の大珠を押し出すなんて、どう考えても不可能に思えた。でもやらなければ、このまま永遠に放置される。椿の仕事に容赦はなく、それゆえに扇屋の評判は高いのだと噂に聞いていた。
「くう、んっ……はあっ……あぅ、あ……くっ……」
狭い花筒の中を珊瑚がにじり動く感覚に鳥肌を立てながら、懸命に後ろを締めたり緩めたりする。意識して内襞を蠢かせることへの羞恥は、自らの意志でこの淫らな行為をしているという事実を梟に思い知らせ、そのつらさにまた涙が零れた。
力の入らない腰を叱咤し何度もそれを繰り返すうちに、濡れた花蕾が内側から綻んで口を開き、真紅の大珠が顔をのぞかせる。汗に濡れた白い双丘の狭間、前には花茎の先に揺れる紅薔薇、後ろにはぬめぬめと光る紅珠がぷくりと浮かび上がり、内側から丸く花蕾を開きながら少しずつ押し出され、姿を現していく様はおそろしく淫靡だった。
「あ、ぁんっ」
全身を引き攣らせながらようやく珊瑚珠を外に押しやった時は、安堵のあまり噛みしめていた唇から甘えるような声が洩れてしまった。
けれど椿は梟の体温にあたたまったそれを、再び奥に押し込んでしまう。
「いやあぁぁっ……どうしてっ……!」
「随分と時間が掛かったからね、それでは男を満足させる花筒とは言えない。襞を蠢かせて、もっと早く出せるようになるまで何度もするんだよ」
「そんなっ……」
調教師の無慈悲な言葉に、目の前が真っ暗になった。空虚に見開かれた瞳から、止まることを忘れたように涙が溢れる。それでも、従わなければ終わらない。
気が遠くなるほどの長い時間、梟の花筒はうねり、蠢き、珊瑚の大珠を咥えては呑み込み、呑み込んではくねり出した。大珠で遊ぶのに飽きた貪欲な花筒が、もっと太く硬いものを食い締めたいと疼き出し、淫らな花蕾が口を開いて真っ赤に熟した内襞を見せるまで、珊瑚を使った躾は延々と続いた。
「……はっ、はっ、……っ、あぅ……あっ……ひっ……」
「こんなものかねえ、では具合を見ていただこうか」
理性は霞み、息も絶え絶えの梟の耳に、すぐ側に立つはずの椿の声は遠いもののように聞こえる。
「そこの御方、この子の花筒のお毒味役を頼まれてはくれませんか」
「毒味…?」
「陛下に差し上げるものに万が一にも不具合があってはならないでしょう。なに、腰の雄刀を花筒に挿して下さるだけでいいんですよ。今のこの子の花筒は、それだけで天に導くほど艶かしく男を搾るでしょうから」
椿は一体、何を、誰と話しているのか。
朦朧とした意識の中で、床に下ろされ、背後に誰かが座る気配を感じた。その男は汗に濡れた梟の体を後ろから抱き上げ、胡座をかいた自分の上に座らせる形に腰を持ち上げる。そして、だらしなく綻びた花蕾に天を指してそそり立つ自身を押し当てると、腰を支える手を離し一気に突き刺した。
「あああああぁぁっ!!」
凄まじい形と大きさのものに、珊瑚珠で熟れた花筒を激しく擦り上げられ、息が詰まるような衝撃に梟は喉を振り絞って絶叫した。
串刺しにされた体は小刻みに震えるばかりで、滂沱の涙を流したまま彷徨う目は虚空を見つめている。それでも望んでいたものを与えられた花筒は、捩じ込まれた凶器に待ちかねたように吸いつき、啜り上げる。
その飢えたような動きは屈強な男でも耐え難いほどで、梟を貫いた男はいくらも経たずに白い胸に回した腕に力を込め、指先に触れた突起を捻り上げながら最奥に熱い精を大量に叩きつけた。
「いやあっ、ああああぁぁ!!」
大珠との戯れで爛れたように敏感になっている内襞を、こそげるような勢いで精液に舐め叩かれ、あられもない嬌声が迸った。閉じることもできない唇は、荒い呼吸で乾ききっている。
(もう、無理、だ…)
胸と後ろと前と。三点を同時に責められ、脳を焼き尽くす快楽にとうとう梟の理性は陥落した。長引かされた絶頂が欲しくて欲しくて、もうそれしか頭にない。
「……許してっ……もう、だめ、……許して、椿ぃっ」
救いを求めるように椿の名を叫んだ途端、首筋に鋭い痛みが走り、束の間梟は自分を取り戻す。のろのろと振り向くと、涙でぼやけてよく見えない視界に自分を犯す男の顔が映った――蜻蛉だ。
信じられない、と梟の目が見開かれる。自分に愛を囁いた男が、他の男たちの前で、他の男のために自分を抱くなど。
「どんな具合ですかね、お毒味役様?」
「…問題ない」
「よかったねえ梟、お毒味役様のお墨付きが出たよ」
梟の絶望を取り残し、にっこりと笑う椿は、さらに残酷なことをさらりと口にした。
「ほら、あと二度お毒味役様から精を搾るんだよ」
「……え……?」
「花筒で男に仕える男は、男を三度達かせてからでないと自分が極めることは許されない。花街の掟だ。全身でお毒味役様にお縋りしてごらん、ご褒美はそれからだよ」
皇帝の前で蜻蛉に抱かれろと、淫らに変貌した花筒であと二度絶頂へ導けと、椿は言うのだ。誰に抱かれても蜻蛉だけは嫌だと心が血を流すが、呂律の回らない舌は上手く言葉を紡げない。
それに椿が――調教師が命じたなら、梟に逃れる術はないのだ。
諦念と絶望、そして狂おしい放出の欲望に全身を染めながら、梟は懸命に花筒を操ろうと努めた。けれど、蜻蛉の精を浴びて痺れたようになっているそこは、勝手な収縮を繰り返すばかりで梟の言うことを聞かない。
「ふ、ぁ……も、無理っ……動け、ない……いや、もう、いやだぁ、許してぇっ!」
「…仕方のない子だねえ」
堪えきれず子供のような稚さで泣き出した梟に、椿もやれやれと調教の手綱を緩め、艶っぽい眼差しで、後ろから梟を抱き締める蜻蛉を挑むように見遣った。
「お毒味役様、この子を哀れとお思いなら、情けを掛けてやってくれませんか。この艶姿、愛でるに足る仕上がりになっておりましょう?近年稀に見る傑作と、自負しているのですがねえ」
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