この世界にはヒトとケモノ、ふたつの種族が共存している。優れた頭脳と身体能力を持つヒトと、獣耳と尻尾を持ち、ヒトに従うことを役目として課せられたケモノ。 　その昔、ヒトとケモノがこの世界の覇権を巡って争った結果、ヒトが勝利し、今の社会での立場や関係性ができあがったらしい。 　無論鈴真も、物心ついた頃から十二歳になる現在まで、両親や教師に教えられた通りにヒトはケモノの上に立つものという考えを良しとしてきた。 　むしろ、ケモノは醜い獣耳や尻尾を持つばかりか、凶暴でヒトに害をなす悪い生き物だと思っている。この間も、何の罪もないヒトの子供がケモノに誘拐され、殺される事件が起きたばかりだ。全てのケモノが犯罪を犯すわけではないが、それでもケモノが危険な生き物であることは事実だ。だからこそ、ヒトがケモノをきちんとしつけて、従わせる必要がある。この世界ではそういった考えが当たり前で、鈴真はそのことに疑問を抱くことすらなかった。