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ヒトとケモノ④
そして、鈴真の従兄弟で同い年の朔月はヒトである鈴真の父の弟と、この家の使用人だったケモノの母親の間に生まれた、ヒトとケモノのハーフだ。と言っても、見た目はヒトと何ら変わりない姿をしている。獣耳もないし、尻尾も生えていない。
朔月の両親は種族の垣根を越えて許されない恋に落ち、心中騒ぎを起こした。その際に彼の父親は亡くなり、母親だけが生き残った。しばらくして母親の妊娠が判明し、朔月が生まれたが、母親は朔月を鈴真の父に託して行方をくらました。
当然だが、鈴真はケモノと関係を持った叔父のことも、自分勝手に子供を産んで父に押しつけたケモノの女のことも、良く思っていない。
鈴真の生まれた一宮 家はヒトの中でも古くから続く名家で、かつて存在していたヒトの王家の血を引くと言われている。その一宮家からケモノと交わった人間が出たことなど、末代までの恥だ。
それでも父は朔月を使用人として引き取り、鈴真の身の回りの世話をさせている。鈴真としては、ほかにもちゃんとしたヒトの使用人がいるし、わざわざケモノの血を引く朔月に世話をされる必要などないと思っているのだが、父の命令だからと仕方なく了承した。
しかし、朔月はケモノの血を引くくせに学校の成績は無駄に良く、派手ではないが落ち着いた美しい顔立ちをしている。彼の描いた絵や作文などが賞を取ったのも一度や二度ではなく、当然、鈴真としては面白くない。
鈴真だって容姿を褒められることが多いし、学校の成績が悪いわけではなく、むしろ良いほうなのだが、それでも朔月のあらゆる才能が突出しているため、どうしても周囲からは比べられてしまう。別に誰からも褒められたいというわけではないが、自分よりも朔月のほうが優れていると思われるのは癪だった。
だから、朔月にはつい冷たく当たってしまう。鈴真がいくら努力しても越えられない壁を、朔月は容易く越えてしまうのだ。そのことが、ヒトである鈴真のプライドを深く傷つけた。
──それに、鈴真にはひとつ気がかりなことがある。
自分の容姿が両親に全く似ておらず、従兄弟である朔月のほうが両親の面影を色濃く残していることだ。
鈴真はヒトにしては珍しい白銀の髪に、昼間の空のような青い色の瞳をしているが、両親はふたりとも夜のような黒髪に黒い瞳だ。朔月の父も同じような黒髪黒目だったらしいから、彼が鈴真の両親に似ていても何らおかしくはない。けれど、鈴真が敬愛する両親に息子である自分よりも朔月のほうが似ているだなんて、鈴真には許しがたいことだった。
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