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 朔月を見送ったあと、夜中に喉が渇いて目を覚ました鈴真は、リビングで両親が何か話しているのを耳にした。 「本当に良かったの? 朔月のこと」 「確証のない話だ。結局、真相はわからずじまいだったからな」  どうやら朔月の話をしているらしい、ということはわかった。だが、確証のない話とか、真相とか、一体何のことだろう。 「じゃあ、私はもう寝るわね」  その時、母が何かを持って立ち上がった。そのままドアのほうに歩いてくる。鈴真は立ち聞きしていたことを知られたくなくて、咄嗟に柱の陰に隠れた。  リビングのドアを閉める音。ちらりと盗み見ると、母はアルバムのようなものを手にしていた。  ──あれは確か、鈴真が父に絶対に見てはいけないと言い含められているアルバムだ。  偶然両親の寝室であのアルバムを見つけて、触ろうとした鈴真の手を父が叩き、えらく激しい剣幕で怒られたので、よく覚えている。  母は鈴真の存在に気付くことなく階段を上がって行き、やがて寝室のドアが閉まる音がした。  鈴真はほっと息を吐いて、そろそろと柱の陰から出てくる。今日はもうさっさと寝てしまおう。そう思って階段に向かうと、小さな白い紙が落ちていた。母が落としたのだろうか。手にとってみると、どうやら写真のようだ。裏面には「華皇月子」と手書きの文字で書かれている。見覚えのない筆跡だ。 「かおう……つきこ……」  人の名前だろうか──どこかで耳にした気がする、と思いつつ裏をめくって、鈴真は思わず声を上げそうになった。  ──そこには、白銀の髪を腰まで伸ばした空色の瞳のケモノの女性が映っていた。

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