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異変①

 朔月が屋敷を去ってから、気がつけば二年近く過ぎていた。  朝、鈴真がいつものように目を覚ますと、酷い倦怠感と頭痛に襲われた。こめかみの上辺りが奇妙に熱く、触れてみるとやはり盛り上がっている気がする。  それだけではなく、尻の上──尾てい骨の辺りも熱くてじんじんする。場所が場所なだけに、両親や使用人にも異変を伝えづらかった。  その日はそのまま登校したが、授業中に気分が悪くなって結局早退した。迎えに来た使用人の車で屋敷に戻り、自分の部屋に辿り着いた頃には身体中が熱くて吐きそうだった。  こんな時に限って両親は旅行に行っていて留守で、一応使用人に頼んで両親に鈴真の体調のことを連絡してもらったが、すぐには帰れないと言われてしまった。  食欲もなく、水だけ口にしてずっとベッドに入っていたが、体調不良のせいだけではなく、両親が自分を心配して帰って来てくれないことが哀しくて、涙が出た。  こんな時、誰かがそばにいてくれたならどんなにいいだろう。温かい手のひらで頭を撫でてくれて、「大丈夫、ずっとそばにいるよ」と優しく語りかけてくれるような、誰か。  その時脳裏に浮かんだのは、なぜか朔月の顔だった。  朔月はあまり笑わなかったし、何を考えているのかわからないところがあった。だけど、鈴真が寂しい時、決まって朔月が現れて何も言わずにそばにいてくれたことを思い出す。  ──朔月は、今頃どうしているだろう。新しい両親のもとで、幸せに暮らしているのか。朔月のそんな姿を想像すると、胸の奥からどす黒い感情が湧いてくる。 (なんで、あいつばっかり……)  浮かんでくる朔月の顔を忘れたくて、きつく目を閉じた。

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