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異変②
カーテンの隙間からこぼれる朝陽が眩しくて、鈴真はそっと目を開けた。
──今、何時だろう。
時計に手を伸ばそうとするが、腕どころか身体中が硬直したように動かない。一体どうしてしまったのだろう。
そういえば、あれだけ酷かった身体の痛みや吐き気が消えている。しかし、体調は良いはずなのに、指一本動かすのさえ苦労した。
何とか力を入れてベッドに肘をつき、上半身を起こした鈴真は、何か大事なものを失ったような、とてつもない喪失感に襲われた。
そして、足元にふわふわした感触があることに気付き、そちらを見ると真っ白な毛に覆われた細長い物体がシーツの上で跳ねていた。
「なんだこれ……?」
ぎょっとして、それを引っ張ってみる。途端に、尻の辺りに引っ張られたみたいな鋭い痛みが走った。慌てて手を離し、恐る恐るそれの先を目線で辿る。
「嘘だろ……僕の身体から生えてるのか……?」
相変わらず硬直している腕を必死に動かし、自分の尻に触れる。間違いない。尾てい骨の辺りから、ふわふわしたものが生えていた。
──自分は何か悪い夢でも見ているのだろうか。
どくどくと脈打つ音が耳の奥でうるさい。そう、耳の奥──そこまで考えて、鈴真は自分の耳があるはずの場所に手で触れた。しかし、そこには昨日まであったはずの耳がなく、つるつるとした平らな皮膚の感触しかない。
──では、今聴こえている音はどこから?
考えなくてもわかる。鈴真の手は自然と自分の頭へと向かっていた。
「そんな……」
そこにはあるはずのない柔らかい毛に覆われた三角形の塊がふたつあり、それが今の自分の耳だということは、前の耳との聴こえ方の微妙な違いから理解できた。視界の隅で、細長い物体──尻尾が、ぱさりと力なく落ちる。
(どうして僕の身体から獣の耳と尻尾が生えているんだ……!?)
鈴真は混乱していた。もしかしたら、使用人か誰かのいたずらだったりしないだろうか。そう思って部屋の中を見渡してみるが、部屋どころか屋敷中が奇妙なほど静まり返っている。
とりあえず、状況を確認しなくてはならない。
鈴真はようやく言うことを聞き始めた身体を引きずるようにして歩き、室内に置いてある姿見の前に立つ。そして、そこに映し出された自分の姿を見て愕然とする。
危惧していた通り、頭からは猫のような獣耳が、尻からは細長い猫の尻尾が生えていて、いずれも真っ白だった。
──脳裏に、母が落とした写真に映っていた、美しいケモノの女性の姿が浮かぶ。
華皇月子。朔月の母親の名前。
もうそれ以上見ていられなくて、鈴真は顔を両手で覆い、膝から崩れ落ちた。
(悪夢だ……こんなのありえない。僕はヒトだ……!)
全部、夢だ。だから早く醒めてくれ。
しばらくそのままうずくまっていると、控えめなノックとともに部屋のドアが開いた。
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