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異変③

「鈴真さま?」  聞き慣れた使用人の女性の声だ。鈴真は自分が変わってしまったことを知られるのが怖くなり、そばにあった掛け布団を頭から被り、耳と尻尾を隠した。 「目を覚まされたのですね?」  使用人は鈴真の姿を見てどこかほっとしたように息を吐き出した。そして、布団を被ったままへたり込む鈴真の手をとり、ベッドのほうへと誘導する。 「まだ目覚めたばかりなのですから、いきなり動かれてはいけません。主治医の先生にも診て頂かなければ……」 「そ、そこまでしなくていい! 大丈夫だから……」  医者になど診せたら鈴真の身体がおかしくなったことがバレてしまう。だが、使用人は硬い表情で首を振る。 「大丈夫ではありません。鈴真さまは、一ヶ月近くも意識を失って眠り続けていたのですから」 「一ヶ月!?」  鈴真にとっては一晩しか経っていないような感覚だが、どうやら知らないうちに随分と時間が経っていたらしい。  だが、考えてみれば、たった一晩の間にこれだけの身体の変化が起こるとは思えない。となると、やはり時間をかけて少しずつ変化していったと考えるのが普通だ。ずっと眠っていたというのも、おそらく変化に必要なことだったのだろう。  でも、一ヶ月近くも眠っていたのに、鈴真の変化に誰も気付かないものだろうか。それとも、この使用人は気付いている? 鈴真の味方なのだろうか?  鈴真は使用人の本心が知りたくて、思いきって布団から頭を出した。その拍子に、布団がばさりと重たい音を立てて床に落ちる。  目の前では、鈴真の姿を見た使用人が青ざめていた。 「い、いやああああ!」  甲高い叫び声が屋敷中に響き渡る。だが、叫んだのは使用人ではなく、開け放たれたドアの向こうに立つ母だった。

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