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蒼華学園①
──私立蒼華 学園。
ヒトはヒト専用の学校、ケモノはケモノ専用の学校に通うことが一般的とされる中、この学園はヒトとケモノの共学という、極めて珍しい形態の全寮制の男子校である。
ただ、共学とは言ってもヒト科とケモノ科にクラスが分かれており、それぞれ異なる校舎を使用する決まりになっている。
そんな蒼華学園高等部に、鈴真と朔月はこの春入学する。
「おい、ケモノごときが道の真ん中歩くなよ。邪魔なんだよ」
「す、すみません……! 許してください!」
校門から高等部の昇降口へと続く並木道で、柄の悪いヒトの生徒がケモノの生徒を足蹴にしていた。
ケモノの生徒は長い兎の耳と丸い尻尾を持ち、緩く巻いた薄茶色の髪を短めに切り揃えている。体格は高校生にしては華奢で、女の子のような愛らしい顔立ちをしている。
「ゆ、許してください……」
彼は瞳に涙を浮かべながらぺこぺこと頭を下げ、その度に長い兎の耳がゆらゆら揺れる。しかし、ヒトの生徒は「聞こえねぇなぁ」と言って彼の耳を掴んで引っ張る。
周囲の生徒達は見て見ぬふりをしてその場を通り過ぎ、彼が本気で泣き出しそうになった時だった。
「おい、邪魔」
突如涼やかな声とともに脚が振り下ろされ、まともに一撃を食らったヒトの生徒は「ぎゃっ!」と叫んでその場に倒れた。
兎耳の生徒が恐る恐る顔を上げると、そこには白銀の髪に空みたいな青い瞳をした、猫耳と尻尾を持つ美しい少年が立っていた。繊細なつくりの顔立ちは一見して少女のようにも見え、体格が良いとは言い難いが、そのしなやかな肉体から繰り出された蹴りは見事なもので、思わずぼうっと見蕩れてしまう。自分と同じ学園指定の紺ブレザーを着ているが、先輩だろうか。
「て、てめぇ……! ケモノの分際で!」
公衆の面前で無様に蹴り飛ばされたことが恥ずかしかったのか、ヒトの生徒が顔を真っ赤にしながら猫耳の生徒に殴りかかる。しかし、その拳はふたりの間に割って入った別の少年によって受け止められた。
「僕の従者がどうかしたかな?」
その少年は黒髪に黒い瞳をしたヒトだった。猫耳の少年と並んでも引けを取らないくらいに整った顔立ちをしていて、彼もまた学園の制服を着ている。
「邪魔すんじゃねえよ……!」
それでもまだ怒りが収まらない様子のヒトの生徒だったが、黒髪の少年が彼の耳元で何かを囁くと、一気に青ざめて苦笑いしながら頭を下げた。
「こ、神牙 さまの従者でしたか……! 失礼しました!」
ヒトの生徒は逃げるようにその場を立ち去った。
「神牙って、あの?」
「今年入学するとは聞いてたけど……」
騒ぎを遠くから見ていたヒトの生徒達が、黒髪の少年を指さしてひそひそと呟く。
「駄目だよ鈴、勝手な行動とっちゃ。ほかのヒトに目をつけられたらどうするの?」
黒髪の少年は猫耳の少年をたしなめるように優しく叱り、周囲の雑音など耳に入っていないようだった。
先程の会話の内容から、ふたりはおそらく主従関係なのだと察することができる。この学園はヒトとケモノの共学なだけあって、すでに主従関係となった生徒達も多くいるという話だ。
だが、猫耳の少年は不機嫌そうに黒髪の少年を睨むと、舌打ちして去っていった。黒髪の少年もそのあとに続き、ひとり残された兎耳の生徒は、キラキラと瞳を輝かせながらふたりの背を見送っている。
「か、かっこいい……!」
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