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蒼華学園④

 蒼華学園高等部の入学式は、新設されたばかりの講堂で行われた。名門校なだけあって沢山の生徒が参加していたが、その中でもケモノ科の生徒の数は少なく、隅に追いやられるように一番奥まった席に座らされていた。  式が始まってしばらくしてから、斜め前の夕桜の隣の席に灰色の髪の生徒が着席した。ここまで歩いて来る時にも思ったが、彼は長身で一際目立っており、ケモノなのに立ち居振る舞いが堂々としていた。夕桜と知り合いなのか、ひそひそと言葉を交わしている。 (あの耳の形は……狼? 初めて見た……)  あんなケモノもいるのか、と何となく思った。  そして長々とした校長の話がようやく終わり、退屈していた鈴真はあくびを噛み殺して目を擦った。  しかし、新入生代表の挨拶のために壇上に上がったのが朔月だと気付き、酷く動揺した。  朔月は真っ直ぐに前を見据えて澱みなく話し、そんな朔月に生徒や教師、保護者までもが見蕩れているようだった。 (本当なら、あそこには僕が立っていてもおかしくなかったんだ)  実は、鈴真は蒼華学園中等部を受験して、落ちている。だから高校こそは蒼華学園に入学すると心に決めて、毎日勉強に励んでいた。鈴真がまだヒトだった頃の話だ。  どうしても蒼華学園に行きたかった一番の理由は、父から高等部の入学式で新入生代表の挨拶をしたという話を何度も聞かされていて、自然と蒼華学園に憧れを抱くようになったからだ。あの頃の鈴真は、自分もいずれは父のように入学式で壇上に立つのだと、信じて疑わなかった。  ──だけど、今鈴真が憧れた場所に立っているのは、朔月だ。おそらくどんなに努力して良い成績を取ったところで、ケモノがあの場所に立つことは許されないだろう。鈴真がケモノになった時点で、彼の夢は潰えていたのだ。  鈴真は悔しくて、自分が情けなくて、気がつけば唇を血が滲むほど強く噛み締めていた。  すると、一瞬だけ朔月と目が合った気がした。だが、すぐにそんなわけはないと思い直す。  朔月のいる壇上からここまではかなりの距離があるし、似たような獣耳を持ったケモノ達の中で、鈴真ひとりを見つけ出すなんて不可能だ。  それなのに、どうしてか鈴真は、朔月に自分の感情を──朔月への激しい嫉妬心を見抜かれた気がして、背筋が寒くなった。

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