18 / 121

蒼華学園⑤

「鈴真くん、寮まで一緒に帰ろう」  入学式が終わり、ようやく解放されることにほっとしていた鈴真だが、寮に帰ろうとしていたところを夕桜に捕まってしまった。  どうやら式のあと、教室での自己紹介で鈴真がフルネームで名乗ったのをしっかり記憶していたらしく、馴れ馴れしく鈴真くんなどと呼んでくる。  夕桜は気弱そうに見えて意外とグイグイくるところがあるらしく、鈴真を気に入ったようでやたらと話しかけてくる。鈴真は全身から拒絶のオーラを発しているつもりだが、夕桜には効果がないらしい。 「ひとりで帰れ」 「えぇっ、そんなあ!」  鈴真が素っ気なく答えると、夕桜の耳が大袈裟に垂れ下がる。 「夕桜、あんま無理強いすんな」  夕桜の背後から長身の人影がぬっと姿を現し、鈴真は彼が入学式に遅れてやって来たふてぶてしい態度の生徒だと気付く。 「灰牙(はいが)ぁ……」  夕桜がしゅんと肩を落として狼耳の生徒を見上げる。どうやらふたりは親しいらしいが、狼と兎の組み合わせとは、なかなかに珍しい。 「一宮、だっけ。お前、なんか姫っぽいな」  灰牙と呼ばれた生徒が、鋭い瞳を細めながら無表情で言った。 「……は?」  一瞬何を言われたのか理解できず、馬鹿にされたのだ、と遅れて怒りが湧いてくる。思わず拳を握りしめた鈴真に、灰牙が「いや、違う」と考え込むように眉間に皺を寄せる。 「俺の妹に似てるんだ」 「……」  微妙な空気が三人の間を漂う。今日初めて会った相手にそんなことを言われても、どうしたらいいかわからない。 「もぉ、灰牙ってばまた適当なこと言って! ごめんね鈴真くん、この子ちょっとズレてるだけだから! 気にしないで!」  夕桜が慌てるふうでもなく、にこにこしながら灰牙の尻尾を掴んで思いきり引っ張る。灰牙は「痛てぇ」と言いつつも、相変わらず無表情だ。 (変なやつら……)  鈴真が呆気にとられていると、何やら教室の外のほうが騒がしくなった。生徒達が物珍しそうに廊下を覗き込んでいる。 「なんだろ?」  ちょっと見てくる、と言って夕桜が人だかりの中に入っていく。だが、慌てたようにすぐ戻って来て、興奮気味に鈴真の腕を掴んだ。 「鈴真くん、来てるよ! お迎えが!」 「は……? お迎え?」  夕桜の剣幕に圧されて戸惑う鈴真の耳に、聞き慣れた声が響く。 「鈴、迎えに来たよ。一緒に帰ろう」  人だかりが自然に割れて、その奥から優雅な足取りで教室に入って来たのは、やはり朔月だった。夕桜もほかの生徒達も、皆うっとりと朔月を見つめている。  鈴真には理解できないが、どうやらケモノからすると朔月はよほど魅力的な人間に見えているらしい。しかし、鈴真は彼の本性を知っているのだ。大人しく言うことを聞く気などなかった。 「迎えなんかいらない。お前と帰るなんて嫌だ」  冷たい声で、はっきりと拒絶する。それを聞いた周りの生徒達が、ヒトの──それも神牙家の御曹司相手にそんな口を利くなんて……と、ざわめきだした。 (馬鹿馬鹿しい……)  鈴真は彼らの言葉など気にせず、そのまま朔月の横を通り過ぎようとするが、すれ違いざまに痛いほどの強い力で腕を掴まれ、強引に引っ張られた。

ともだちにシェアしよう!