20 / 121

蒼華宮②

「朔月!」  その時、朔月が開けたドアの向こうからヒトの少女が走って来て、朔月の身体に思いきり抱きついた。鈴真は突然の事態に面食らって呆然とするが、すぐにその違和感に気付く。 (……女? ここは男子校のはずなのに、なんで女が……) 「春音……苦しいから離れてくれる?」 「あっ、ごめんつい……! 会うの春休みぶりだから……」  朔月は特に動じることもなく淡々と言って、少女は頬を赤くしながら名残惜しそうに彼から離れる。  その少女は地毛なのか染めているのか不明だが、ピンクベージュの髪を腰の位置で切り揃え、上は学園指定のブレザーにネクタイという出で立ちで、下は赤いチェック柄のミニスカートを履いている。この学園に女子生徒がいたら、きっとこんな感じだろうと思わせるほどに、彼女の着こなしはこの学園に馴染んでいた。 「朔月、この子は?」  ようやく鈴真に視線を向けた少女は、先程朔月に向けた甘ったるい眼差しとは全く違う、冷めた目で鈴真を凝視した。 「ああ、まだ紹介してなかったね。僕の従者、鈴真だよ」 「君が……ふうん?」  朔月が鈴真の肩に手を回し、自分のほうに引き寄せながら紹介したのを見て、少女は不満そうに唇を尖らせた。  一方で鈴真はそんな少女の態度よりも、まるで自分の所有物だと見せつけるかのように肩を抱く朔月のほうが気に食わなかったが、口には出さなかった。 「はじめまして、あたし春音(はるね)。朔月とは親同士が知り合いで、昔からの付き合いなの。中学も一緒だったのよ」  春音と名乗った少女は鈴真を値踏みするようにじろじろと眺めまわし、不躾な視線にさすがに気分が悪くなった鈴真は、春音を強く睨みつけた。 「じろじろ見るな」 「なあに? 感じ悪いなぁ!」  早くもふたりの間に一触即発の空気が漂う中、間に挟まれた朔月は鈴真を見て穏やかな笑みを浮かべた。 「それはそうだよ。鈴は僕以外には懐かないからね」 (お前にも懐いてない!)  口には出さずに抗議の目を向ける鈴真だが、当の本人は涼しい顔で微笑んでいる。本当に憎たらしい。

ともだちにシェアしよう!