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※朔月のお願い②

「ねぇ鈴、今から僕の前で自分でしてみせて?」 「──」  最初は言葉の意味がよくわからなかった。いや、わかりたくないと心が拒否していたのかもしれない。 「自分でいじって、僕にイくところ見せてよ」  今度こそはっきりと言葉の意味が脳に浸透し、鈴真は顔を強ばらせて朔月を見た。  朔月はソファに悠然と腰かけ、長い脚を組みながら上品な微笑みを浮かべている。まるで先程口にした下品な「お願い」などなかったかのように。 「どうしたの? 早くしないともっと酷いことさせたくなっちゃうかも」  もっと酷いこと、と聞いて、鈴真の脳裏に今まで朔月から受けてきた屈辱の数々がよぎる。そのひとつひとつを思い出して、あの時に比べたらましじゃないかと自分に言い聞かせるが、ここでまた朔月に従ったらさらに自分の中の大事なものが失われる気がして、彼の指示通りに動こうとする右手に爪を立てた。 「……ねぇ、君って馬鹿なの? 僕が何に怒ってるのか、もう忘れた?」  朔月の声がやや低くなり、不機嫌そうな響きを帯びる。それでも鈴真は自分の手の甲を爪で抉るのをやめない。  やがて、朔月が立ち上がってこちらに近付いてきた。鈴真の隣にゆっくりと腰を下ろし、その拍子にベッドのスプリングがぎしりと軋む。 「わかったよ。じゃあちょっとだけ手伝ってあげる」  そう言うと、朔月は鈴真のスラックスの前を寛げて萎えたものを取り出し、扱き始めた。朔月の手は鈴真の感じる箇所を知り尽くしているみたいに巧みに動き、優しく撫でられたかと思えば時々強く擦られたりして、とてもそんな気分ではなかったはずなのに、いつの間にか鈴真のものは熱く昂っていた。 「っ、ん……」 「そう、いい子だね。可愛いよ、鈴」  頼むからもうやめて欲しい。そう叫びたいのに、舌がもつれて呂律が回らない。朔月に身体を触れられるといつもこうだ。すぐに頭が真っ白になって、自分が自分ではなくなっていく。

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