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満月①

 学園に入学してからしばらく経ち、鈴真もここでの生活に慣れてきた頃のこと。  寮の自室で目を覚ました鈴真は、酷い頭痛と吐き気に襲われて溜息をついた。  ──ああ、またこの日が来た。 「……っ、くそ……」  ベッドから起き上がってズキズキと痛む頭を押さえると、同室の朔月が心配そうに声をかけてきた。 「大丈夫? 今日は休んだほうがいいんじゃない?」 「別にこれくらい平気だ……」  鈴真はまだ何か言いたそうにしている朔月を無視して、制服に着替え始めた。  鈴真達以外に主従契約を結んでいる生徒は少ないが、蒼華学園では主従関係のふたりは寮で同室になると決まっている。校舎は別々なのに、ヒトもケモノも同じ寮で暮らしているのは、この学園のわけのわからないところのひとつだ。もっとも、さすがに階ごとにヒトの住むエリアとケモノの住むエリアに分かれていて、鈴真達の部屋があるのは主従関係を結んでいる生徒専用のエリアになる。  元々神牙家でほとんどの時間をともに過ごしてきたので、今更朔月と同じ部屋で生活することには何も感じないが、たまに居心地の悪さを覚えることもある。  そう、例えばこんなふうに着替えている時、朔月は遠慮なく鈴真の身体をじろじろと眺めてくる。女じゃあるまいし、恥ずかしいなどと言うつもりはないが、ここまで凝視されるといたたまれなくなる。 「じろじろ見るな」  シャツを羽織りながら朔月を睨むと、彼は悪びれもせずに笑った。 「君は僕のものなんだから、見てもいいでしょ?」 「……」  鈴真は呆れたように眉をひそめ、これ以上言っても無駄だと判断してさっさと着替えることにした。とにかく今日は無駄なことに労力を使いたくない。それくらい体調が悪かった。

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