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満月②

「おはよう鈴真くん。大丈夫? 顔色悪いよ」  教室に入ってすぐに夕桜が寄ってきて、鈴真の顔を心配そうに覗き込んだ。やはり誰が見ても具合が悪そうに見えるらしい。 「大丈夫だ……」  鈴真はそう答えるだけで精一杯で、自分の席に座ってぐったりと椅子に身体を預けた。 「もしかして、例のアレ? 今日満月だもんね」  夕桜の言葉に、鈴真は複雑そうな顔をする。ちらりと教室内を見渡すと、ほかの生徒もいつもより元気がなかったり、そもそも登校して来ていない生徒も多い。灰牙の姿もなかった。と言っても彼はサボりの常習犯なので、ただのズル休みかもしれないが。  ケモノは満月の夜になると、身体に何らかの変化が起きる。変化の内容はケモノによって様々だ。何でも満月になるとケモノの本能が活性化するから、ということらしいが、正確な原理はよくわかっておらず、この現象を世間では満月症候群(まんげつしょうこうぐん)と呼んでいる。  ──ただ、鈴真の症状に関しては、少々厄介だった。 「僕はちょっと味覚がおかしくなるだけなんだけど、鈴真くんはつらそうだね。保健室行って休んできたら?」  夕桜の言う通り、昼間のうちからここまで酷い症状が出るのは珍しい。さっきは朔月に休めと言われて思わず反発心が湧き、無理やり登校したが、やはり休んだほうがいいだろう。 「……そうする」  鈴真はよろよろと立ち上がり、夕桜の「付き添おうか?」という申し出を断って、教室を出た。  だが、最悪なことに保健室はヒトと共用で、ヒト科の校舎に存在している。  途中でそのことを思い出した鈴真は授業が始まるまでケモノ科の校舎で時間を潰し、生徒が教室に戻ってからヒト科の校舎に行き、保健室に入った。保健医は留守だったが、どうせヒトの保健医なのでそのほうが都合がいい。 「はぁ……」  鈴真はカーテンを閉めてベッドに倒れ込んだ。それまで気を張っていたせいか、ベッドに辿り着いた途端、意識が朦朧とし始める。 (身体が熱い……まだ大丈夫だとは思うけど、そんなに長くは持ちそうもない……少し休んだら早退しよう……)  目を閉じて眠気に身を委ねた鈴真だが、突然ドアが開く音がしてゆるゆるとまぶたを持ち上げる。 「誰もいないじゃん」  室内にずかずかと歩く上靴の音が響く。  誰か来た、と気付いたが、カーテンを閉めているので誰か寝ていることは向こうも察するだろうし、こちらに来ることはないだろう、と思った。  だが、いきなり目の前のカーテンがばさりと開かれて、さすがに驚いた鈴真は目を見開いた。

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