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※満月⑤

 鈴真が目を覚ますと、見慣れた寮の自室でベッドに寝かされていた。  いつの間に寮に帰ったのだろう。保健室でヒトに襲われて、朔月に助けられてからの記憶がない。  起き上がろうと上半身を起こして、すぐに吐き気とめまいを感じ、頭がくらくらした。相変わらず身体は酷く熱い。熱を持った股間に自然と手が伸びる。 「目が覚めた?」  突然横から声をかけられた。まだ意識が朦朧としていた鈴真ははっと息を呑み、声のしたほうを見ると、横に置かれたもうひとつのベッドに朔月が腰かけて、こちらをじっと見つめている。  その顔を見た途端、ドクンと心臓が跳ねて、噴き出した汗が首筋を伝い落ちる。朔月から目が離せない。あの大きくて綺麗な手で触れて欲しい。あの形のいい唇に吸いつきたい。いや、本当はもっと──  そこまで考えてから、鈴真はそんな自分の思考に必死に蓋をして、身体から湧き上がる激しい欲望を閉じ込めようとする。だが、もはや身体は言うことを聞いてくれない。鈴真は、いつの間にか物欲しそうに朔月を見ている自分に気付いていた。 「つらい? 相変わらずだね、満月の夜は」 「……うるさい……」  何とか動かせる口を使っていつものように反発する鈴真だが、その声は弱々しく、本当は今すぐにでも身体の求めに従ってしまいたかった。それくらい、もう精神的に限界が来ている。 「そんな態度とっていいの? つらいんでしょ? 僕なら楽にしてあげられるよ?」  ベッドから立ち上がった朔月がゆったりとした足取りでこちらに近付き、鈴真の猫の耳をそろそろと撫でる。 「……っ、余計なお世話だ……っ」 「そんなこと言って、いつまで持つかな」  必死に自分の中の欲望を抑え込もうとする鈴真だが、耳の中──毛に覆われていないむき出しの部分をぺろりと舐められ、びくんと背筋に電流が走った。 「あっ……!」 「どうしたの?」  思わず大きな声を漏らした鈴真を見て、朔月が意地悪そうな笑みを浮かべる。右手で鈴真の左耳を撫でながら、右耳に再び舌を這わせる。朔月の舌が触れる時の水音が直に耳に伝わってきて、鈴真は興奮する自分を抑えきれなくなっていた。 「やっ、ひあ、あ……っ!」  自分の大嫌いな箇所を大嫌いなはずの男に舐められて、こんなにも気持ちよくなっているなんて、許せない。だが、そんななけなしのプライドも、欲しいものがすぐ目の前にあるのに手が届かないような、もどかしい苦痛から早く楽になりたくて、投げ出すしかなかった。

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