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※満月⑥
「鈴、どうしたいの。言ってごらん」
朔月が耳元で囁く度に、彼の熱い吐息が吹きかけられて、鈴真はそれにすら感じてしまう。
苦しい。熱い。朔月に触れたい。朔月が欲しい。
もうこれ以上は我慢できない。鈴真は自分から朔月の首にしがみつき、口を開いた。
「……助けて……朔月……」
羞恥と闘いながらか細い声で訴えるが、朔月はまだ満足してくれない。
「お願いしますは?」
「……っ、お願いします……」
もうどうなってもいい、早く楽にして欲しいという思いだけに支配されて、鈴真は朔月の言う通りに従った。飼い慣らされているとわかっていても、今だけは自分が朔月の所有物でもいいと思えた。
「いい子だ」
朔月は瞳の奥に静かな欲情の陰を宿しながら、顔には普段通りの上品な笑みをまとっている。そんな朔月の顔にぼんやり見蕩れていると、彼の顔が近付いて口付けられた。
「ん、う……」
いつもの口付けとは少し違う、貪るような激しい動きに、鈴真の頭の中は真っ白になる。鈴真の心は欲しかったものをようやく与えられた歓喜でいっぱいになり、もっと朔月のことが欲しくて自分から舌を絡ませた。絡み合った舌の上でお互いの唾液が混ざり合い、唇が離れた後、口内に残った自分と朔月の唾液をごくんと飲み下す。
「鈴も大変だね。満月の夜になるとヒトに発情して、無意識にヒトを誘っちゃうんだっけ?」
ケモノ特有の特殊体質──満月症候群。
鈴真の症状は、極めて珍しいものだと医者から説明を受けた。
今日のようにまだ日があるうちから症状が出ることは稀で、これまではほかのヒトから隔離された場所で、鈴真の身体が満足するまで朔月が彼のものを扱いたりすることで何とか夜明けまで耐えていた。朔月もヒトなので近付いて欲しくはないのだが、朔月は頑なに鈴真のそばにい続けた。幼い頃から一緒にいるせいか、朔月は鈴真の症状に当てられることはないようだったから、こうして頼ってしまうのだけれど──
「無理して学校なんか行かず、最初から僕を頼っていればよかったのに」
若干責めるような響きを帯びた声で言って、朔月は器用に鈴真の服を脱がしていく。火照った肌が冷たい外気に触れて、少しだけ寒さを感じた。
下肢まで露わにされて、すでに勃ち上がったものが朔月の視線に晒される。鈴真は早く触れて欲しくて彼の服の裾を掴んだ。
「でも、こんなふうに正気を失って僕を求める君を見られるのは嬉しいよ。だから、こんな顔は僕以外のやつには見せちゃ駄目だよ。わかった?」
「わかった……から、はやく……」
もはや朔月の言葉の意味すら頭に入って来ない。それでも懸命に頷くと、朔月はようやく鈴真の陰茎を握って扱き始めた。
「んっ、うぅっ!」
朔月の手に触れられただけで達してしまいそうになり、鈴真は息を止めて絶頂へと向かう衝動を受け流した。まだだ。まだこの感覚を味わっていたい。
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