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種族の壁①
休み明けの月曜日、鈴真が教室に入ると、妙に生徒達からの視線を感じた。
訝しみつつも席に着く鈴真に、早速夕桜が話しかけてくる。
「この間は大変だったみたいだね。保健室で意識を失った君を、神牙さまがお姫様抱っこして寮まで運んだって、ものすごい噂になってたよ」
「……」
(朔月のやつ……目立つ真似しやがって……)
自分の知らないうちにそんなことになっていたとは……
確かに、あの状況だと事情を知る朔月が直々に鈴真を運ぶのが一番安全だが、さぞ注目の的だったことだろう。朔月は恥ずかしいとか思わなかったのだろうか。
鈴真は複雑な心境になったが、表には出さなかった。
「いいなあ、ピンチに颯爽と駆け付けるなんて、まるで王子様みたいだ」
夕桜は相変わらずだった。何やら妄想しているらしく、目をきらきらと輝かせてうっとりと微笑む。どうしたらそんなに素直に自分の境遇を受け止められるのだろう。彼だって、つらい思いをしながら生きてきたはずなのに。
「にしても、意識失うような症状ってどんなだよ。大丈夫なのか?」
いつの間にか夕桜の後ろにいた灰牙が、鈴真を心配する素振りで近付く。
「別に……どうだっていいだろ」
鈴真はまだ彼らを信用しているわけではない。気安く満月症候群のことを話す気にはなれなかった。
灰牙はそんな鈴真の心の内を察したらしく、それ以上は聞いてこなかった。
そのうちに予鈴が鳴り、ふたりは自分の席へと戻っていった。
ふと、なぜあの時あんなにタイミング良く朔月が保健室に現れたのか、と考える。朔月も体調が悪いようには見えなかった。鈴真には、自分が襲われていることを知っていたかのように思えた。
やはり、朔月のことは未だによくわからない。わかろうとするだけ無駄だ、と自分に言い聞かせて、鈴真はそっと目を伏せた。
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