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隠し事③
身体から力が抜けて、肩を落とした鈴真の手を引き、朔月が歩き出す。
「今日は蒼華宮に寄っていくから。たまには顔を出さないと春音が拗ねる」
春音──この間の教室での出来事を思い出し、ふたりはいつの間に仲直りしていたのか、と思う。いや、仲直りしていなければ、わざわざ鈴真にあんなことを言いに来ないだろう。そこまで考えて、ふと朔月は友人である春音や冬音にはちゃんと話すのだろうか、と思った。自分には話せないことも、ふたりになら──そんな思考が頭を過ぎり、鈴真はかぶりを振ってそれ以上考えるのをやめた。
(もうやめよう。こいつのことで悩んだって時間の無駄だ。僕には関係のない話だ)
朔月だって、鈴真には関係ないと思っているから話さないのだろう。なら、もうどうでもいい。好きにすればいい。
自分の中に燻る怒りや不安を隠したまま、鈴真は朔月に手を引かれて歩いた。
そして蒼華宮に辿り着き、ドアを開けて広間に入るなり春音が朔月に抱きついてきた。
「朔月! やっと来てくれたのね!」
春音は鈴真に対する態度の悪さとは全く違う、甘えるような仕草で朔月を見上げ、彼の腕にまとわりついている。何も知らない人間が見たら、普通の可愛らしい女の子だと思うことだろう。
朔月ももう春音に怒っていないのか、彼を追い払うことはせず、広間にいた冬音に視線を向けた。
「冬音、借りてた本返すよ」
「ん? あー、別にいつでもいいよ。ほんとお前って読書家だよなぁ。しかもまた難しいやつばっか読んでさぁ」
ソファをベッド代わりにして占領していた冬音が、苦笑しながら上半身を起こす。どうやら冬音とも仲直りしたようだ。
「朔月って昔からそうだよね。知識をつけるためとか言ってつまんなそうに本読んでるの」
「そうかな? 別につまらなくはないけど」
「いや、お前は何やっててもわりとつまんなそうだよ」
自分の知らない朔月の話題で盛り上がる三人の会話をこれ以上聞きたくなくて、鈴真は広間から出ようとドアのほうへ足を踏み出した。
すると突然ドアが開き、見覚えのある姿が広間に入って来る。
「すまない、遅くなった」
学園の制服をきっちりと着込んだ、長身で短髪の爽やかな雰囲気のヒトの少年がそこにいた。その顔に不思議な懐かしさを感じた鈴真だが、彼の後ろから金髪に金毛の狐耳を持つケモノの少年が入って来て、蒼華宮で自分以外のケモノを見たことがなかった鈴真は目を瞠った。
「風羽さん」
冬音がふたりのほうを見ながら口にする。鈴真の胸がどくんと高鳴った。
(風羽……この人が……?)
「こんな時間に来るの珍しいっすね。生徒会の仕事はもういいんすか?」
「ああ。詩雨 が頑張ってくれたおかげで早めに片付いたんだ」
風羽と呼ばれた少年は自信に満ち溢れたハキハキした声でそう言って、狐耳の少年を振り返る。
「俺はサポートをしただけです」
「それでも助かったよ。ありがとう」
素っ気なく返す少年に微笑みかけて、風羽は彼の肩を親しげに抱いた。ふたりの間には、誰も入れない空気が漂っている気がする。そんなふたりを見ていた鈴真は、ズキリと胸が痛むのを感じて目をそらした。
藤市風羽 ──鈴真の幼馴染の少年だ。
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