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雨の夜①

 その日、結局朔月は寮に戻ってこなかった。外泊届けが出されて、受理されたと寮母から聞いた。  鈴真は寮の公衆電話から朔月の携帯に電話をかけてみたが、何度かけても繋がらず、朔月からも鈴真に電話が来ることはなかった。  ちなみに、蒼華学園では携帯電話の持ち込みは禁止されていて、外部との連絡は寮内の公衆電話か、寮母を通して行われる。朔月は携帯電話を所持しているので、学園の外に出たなら持ち歩いているはずだ。  朔月は今どうしているのだろう。まだ病院で養父のそばについているのだろうか。  学園に入学してから、朔月がいない夜を過ごすのは初めてのことだった。朔月のベッドは今朝の状態のまま綺麗に整えられていて、それが余計に寂しさを誘う。  鈴真は朔月のベッドに近付き、掛け布団にそっと触れた。そうしたら我慢できなくなって、朔月のベッドに潜り込んで布団にくるまった。朔月の匂いがする。こうしていると朔月に抱きしめられているみたいで、少しだけ気分が落ち着いた。  その日、鈴真は一睡もできずに朔月のことばかり考えていた。  翌日になっても朔月は帰ってこなかった。  昨日と違って明らかに元気がない鈴真を見て、夕桜は「何かあったの?」と心配してきたが、鈴真は何も答えられず、俯いた。  放課後、再び春音が鈴真を迎えに来た。今日は冬音は一緒ではないらしい。  春音は無言で顎をしゃくり、ついてこいと合図をした。鈴真は朔月に会いに行くのかと思い、彼のあとを追った。 「乗って」  連れてこられたのは学園の出入り口である校門の外で、黒塗りの高級車が横付けされ、先に乗り込んだ春音から鈴真も乗るように促された。 「どこに行くんだ」 「朔月のところよ」  警戒する鈴真に対し、春音は面倒そうに答える。嘘をついているようには見えない。  鈴真は後部座席の春音の横に乗り込み、まもなく運転手が車を発進させた。車内は皆無言で、重苦しい空気が漂っている。  学園のある山奥から峠道を下り、麓の町を抜けて市街地に出た。しばらく走って、車が停まったのは高級そうな料亭の駐車場だった。

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