65 / 121
決意
廊下に出ると、窓の外の雨は先程よりも強くなっていた。
──正直、朔月にもう一度会うのは怖い。でも、まだ彼に聞きたいことがある。なぜ風羽に自分のことを頼んだのか、本当は自分のことをどう思っているのか。それを聞かなければいけないと強く思った。
廊下を引き返し、やがて自室のドアが見えてくる。鈴真はすぐに異変に気付いた。
部屋のドアが半開きになっている。そっと中を覗くが、人の気配はない。
「朔月……?」
名前を呼び、隅々まで見てまわったが、朔月はどこにもいなかった。背筋を嫌な汗が伝い、ふと窓の外を見ると、雨のカーテン越しに人影が見えた気がして、それが朔月ではないかと直感的に思った。
こんな雨の中、外に出るはずがない。でも、鈴真は朔月が自分から離れていく気配を悟った。
──追いかけなければいけない。でないと、手遅れになる。
鈴真は自分の中の声に従い、部屋を飛び出した。寮の玄関は閉まっているし、人に見つかるとまずい。一階の階段を駆け下りて、廊下の窓を開ける。途端に横殴りの雨が打ちつけるが、気にせずに外に出る。雨が染み込んでぬかるんだ土の上を走り、朔月の姿を探す。
「朔月!」
先程人影が見えた場所へ向かうが、そこには誰もいない。
寮は学園の敷地内にある。ここから学園まではすぐだ。とりあえず思いついたところを探してみようと思い、走り出した。
冷たい雨に打たれて体温が奪われ、ガチガチと歯が鳴る。それに、さっきから頭が割れそうに痛む。
それでも走りながら、鈴真は部屋を出る前に風羽から言われた言葉を思い出した。
──朔月を信じてやれ。あいつが自分で言ったんだ。いつか鈴真に立派な人間として認めてもらえたら、その時は自分が鈴真を幸せにする……もう絶対にひとりにはさせないと。
朔月は何の努力もしなくても何でもできて、鈴真を見下しているのだと思っていた。
でも、朔月は朔月なりに努力をして、鈴真に認めてもらおうとしていたのかもしれない。そしてそれはきっと、幼い頃に鈴真が朔月を「人間」として認めていなかったから──本当はずっと、朔月はそのことで苦しんでいたのだろうか。
朔月が縁談がまとまったと、鈴真は従者でしかないと言った言葉に秘められた真実は、鈴真にはわからない。そもそも、朔月の考えていることなんか特殊すぎて、わかるはずがないのだ。朔月はひねくれていて、歪んでいるから。
だけど、朔月をそんなふうにしてしまったのは鈴真だし、おそらく朔月も、同じようにひねくれた鈴真の考えがわからないのだろう。
「はぁ、はぁ……っ」
体力の落ちた身体で走り回り、鈴真は息を弾ませた。そして、静かに呟く。
「もう、いい……」
(もういい。朔月の考えていることなんか知らない。僕は朔月が欲しい。お前が嫌だって言ったって、死ぬまでつきまとってやる)
一度拾っておいて今更捨てるなんて、絶対に許さない。
ともだちにシェアしよう!