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※ふたりだけの夜②

「後ろ弄られただけで勃っちゃったの? 可愛いなぁ……」 「うっ、んぅ……朔月、もう……」  もはや朔月の言葉の意味すら頭に入ってこない。とにかく早く挿れて欲しかった。  だが、朔月は鈴真の中から指を引き抜くと、意地悪そうな顔で笑った。 「どうして欲しいの? 言ってごらん」  絶対に鈴真が何を求めているのか理解しているくせに、朔月は鈴真が答えるまで応じる気はないらしい。朔月だって早く挿れたくて仕方ないという顔をしているのに。 「……っ、い、れて……」 「何を?」  鈴真が赤くなって震えている様を愉しむように、朔月が顔を近付けてくる。 「さ、朔月の……」 「僕のを挿れて、どうして欲しいの?」 「……っ」 「ん? 何、聞こえない」  朔月が鈴真の唇に耳を寄せる。全て茶番だとわかっていながら、鈴真は抗えなかった。 「……朔月の、で、めちゃくちゃに突かれたい……」  恥ずかしさの限界を越え、鈴真は誤魔化すように朔月の顔を引き寄せてキスをした。自分の中の欲望をぶつけるみたいに、朔月の舌を吸う。朔月もそれに応えながら、鈴真の窄まりに硬く張り詰めた自身を押し付けた。 「は、ぁ……」  鈴真がそのもどかしい感触に愉悦の溜息を漏らすと、朔月は身体を起こしてゆっくりと鈴真の中に自身を埋める。 「いい子だね、鈴。ほら、これが欲しかったんでしょ?」 「ぁっ、あぁっ……」  鈴真の狭い肉道を、朔月の昂った熱が徐々に押し広げていく。久しぶりの感覚に鈴真は息ができなくなり、シーツをきつく握りしめて喘いだ。 「はっ……はぁっ……」 「……っ、すごい……君の中、狭くて……きゅうきゅう締めつけてくる……」  朔月も気持ちいいのか、悩ましげに眉を寄せて目を閉じている。その顔を見られたことが嬉しくて、鈴真は知らず、朔月のものをきゅっと締めつけた。 「は……もう、動くよ……」 「ん……うぅっ、ひぁっ!」  朔月が律動を開始し、鈴真は両脚を抱えられたまま耐えきれず射精した。勢いよく飛び出た白濁が鈴真の顔にかかる。 「すごい……やらしいなぁ……」 「なに、言っ……んぅっ! あ、あぁっ……!」  朔月に言葉を返そうとしたが、代わりに漏れたのは甘い喘ぎ声だけだった。朔月はそれにすら感じたようで、一層激しく腰を打ちつけ、お互いの肌がぶつかり合う音が室内に鳴り響く。 「ひ、ぁ……も、だめ……!」 「駄目? まだ二回しかイってないでしょ?」  その時、朔月の先端が鈴真の一番感じる箇所を突き上げて、鈴真は絶頂を迎えた。身体がびくびくと痙攣し、世界から音が消えて、目の前が真っ白になるようなこの感覚は、以前にも感じたことがある。 「……鈴、鈴? トんじゃったの?」  頬を優しく叩かれて、鈴真の視界にようやく色が戻ってくる。しばらくぼんやりしていると、朔月が「すごい。ほんとにドライでイけるようになったんだね」と言った。  どうやら射精の伴わない絶頂のことを言っているらしいとわかり、前を触られたわけでもないのにこんなに気持ちいいのはどうしてだろう、と霞んだ頭で思う。 「鈴」  朔月が動きを止めて、鈴真の顔を覗き込む。目の前の大好きな人とひとつになっている感覚。今、ふたりは同じ気持ちを共有している。ふたりにしかわからない感覚を、ふたりだけの世界で感じている。そして鈴真はこの気持ちを何と呼ぶのか、もう知っていた。 「さつき……愛してる。今、すごく幸せ……」  鈴真は涙で濡れた瞳のまま、微笑んだ。  こんな幸せがこの世界に存在することを、朔月が教えてくれた。以前身体を繋げた時は朔月との心の距離がどんどん離れていく気がして怖かった。でもきっとあの時もすれ違っていただけで、朔月の心はすぐそばにあったのだろう。それはもうずっと、最初から。 「……鈴……」  朔月は目を見開き、顔を歪ませて泣きそうな顔で笑った。  そして鈴真の首筋や頬にキスを落とし、律動を再開させる。鈴真は朔月の背中に腕をまわし、きつくしがみついた。 「朔月っ、さつき……っ」 「……っ、鈴……!」  お互いの名前を呼びながら貪るように快楽に溺れ、絡み合った熱がぱっと弾けて火の粉を散らす。  鈴真が四回目の絶頂を迎えた時、朔月も同時に果てた。 「……っ、くっ……」  鈴真の中は朔月の熱をぶちまけられて歓喜に打ち震え、知らないうちに朔月を締めつけていた。朔月の射精はなかなか収まらず、彼の身体はしばらく震えていた。  やがて朔月の震えが収まり、彼が鈴真の中から自身を引き抜くと、ひくひくと痙攣する窄まりからどろっと白濁が溢れ出した。  鈴真はまだ朔月と繋がっていたくて、離れようとする朔月の腰に脚を絡めた。 「まだ……もっとしたい……」  切なげに瞳を潤ませる鈴真に、朔月は目を瞠ってゴクリと喉を鳴らした。 「君……どこでそんな技覚えてくるの……」 「わざ……?」  朔月の言っている意味がよくわからず首を傾げると、朔月は顔を手で覆って深く息を吐く。指の間から覗く朔月の顔は、ほんのり赤く染まっていた。 「「可愛い……」」  お互い同時にそう漏らして、顔を見合わせる。そしてどちらからともなく吹き出し、声を上げて笑った。

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