71 / 121
出会い②
翌日、朔月はほかの使用人に教えてもらいながら朝食の支度をし、鈴真の部屋へと向かった。
「おはようございます」
今日はちゃんと言えた。そのことにほっとしていると、ベッドから起き上がった鈴真がこちらを睨んだ。
「着替えるから出て行け」
「お手伝いします」
山下に言われた通りに鈴真の支度の手伝いをするつもりだった。だが、鈴真は「しなくていい」と言って自分で着替え始めた。予想していなかった展開に戸惑っていると、鈴真は背を向けて着ていたシャツを脱いだ。彼の背中はやはり真っ白で、触れたら柔らかそうだな、と思った。自然と心臓がドキドキと早鐘を打ち始める。なぜかこれ以上見てはいけないという気持ちになり、一歩後ろに下がった。そして、踵が背後のキャビネットに当たり、その衝撃でキャビネットに乗っていた本の山がバサバサと音を立てて崩れた。
「あ……」
崩れた本が床に落ち、朔月は呆然とそれを見下ろした。拾わなきゃ、と思って屈もうとした時、つかつかと早足で歩いてきた鈴真が朔月の頬をぶった。じわ、と頬に痛みが広がり、鈴真が眉を寄せて溜息をつく。
「やっぱり所詮ケモノの子だな。粗相をしておいて謝罪もないのか」
鈴真は上半身を晒したまま、床に落ちた本を拾い始めた。朔月はようやく自分の失態に気付き、「ごめんなさい」と頭を下げた。
「謝る時は申し訳ございませんでした、だろ」
鈴真がこちらを見もせずに言う。
「申し訳……ございませんでした」
朔月は頭を下げたまま、その場から動けなくなった。鈴真が本を元に戻し、支度を終えて部屋を出てからも、ずっとそこにいた。
ともだちにシェアしよう!