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決別

 気を失った鈴真を神牙の屋敷に連れ帰ったあと、朔月は再び一宮家に向かった。朔月の顔を見た一宮夫妻は、鈴真の前では決して見せることのなかった優しい笑みを浮かべていた。 「朔月……やっぱりあなたが私の息子なのね。もっとよく顔を見せて」  母は涙を流しながら朔月の頬に触れた。  誰が見ても、生き別れた親子の感動の再会の場面に見えることだろう。だが、朔月は本当の両親を前にしても自分の心が死んだように動かないことを感じとり、無表情のまま母の手を振りはらった。 「僕は貴方達のもとへ戻る気はありません。今日は鈴──鈴真さまをうちで引き取る旨を伝えに来ました」  母が愕然としたように顔を引き攣らせる。どうして、と動く唇を見なかったことにして、父の返答を待つ。父は困惑を顔に浮かべながら朔月を見ていた。 「私達は実の親子だぞ。本当に戻って来ない気か?」 「僕は貴方達のことを親だとは思えないし、思いたくもない。それよりも鈴真さまを引き取ること、認めてくださいますよね?」  淡々と続ける朔月に、父は苛立ちながら溜息をつく。 「……勝手にしろ。あれのことも、好きにすればいい。もう私達とは何の関係もない存在だ」 「……わかりました。ありがとうございます」  頭を下げて、朔月は足早に屋敷を出た。傘を開き、門までの通路を歩き出す。 (何の関係もない存在だって……? 自分の弟の忘れ形見であり、今まで実の息子として育ててきた子を、こんなにあっさり捨てるなんて……)  自然と傘の柄を持つ指に力がこもる。  あんな人間の血が自分にも流れていることがたまらなく不愉快で、許せなかった。

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