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地下室①
異変は、突然起きた。
今朝は鈴真の体調が悪く、いつまで経ってもベッドから起き上がらない彼を置いて学校に来たが、妙にそわそわして落ち着かない気持ちになった。
そして三時間目の数学の授業中、朔月は酷い頭痛と息苦しさに襲われた。それは本当に突然のことで、先程までなんともなかった身体が内側から何かを訴えるように悲鳴を上げ、ドクドクと心臓が激しく脈打つ。背筋に悪寒が走り、指先が震えてペンを取り落とした。
その瞬間、朔月の脳裏にある光景が映し出された。神牙の屋敷の、朔月の部屋。床の上で、鈴真が倒れていた。
「──先生、気分が悪いので早退します」
朔月はそう言って、教師の返答を待たずに鞄に荷物を詰め込み、教室を飛び出した。
迎えの車が到着するまでの時間も惜しくて、朔月は滅多に利用しない電車に乗り込み、最寄り駅に到着すると携帯電話で屋敷に電話をかけた。だが、なぜか誰も出ない。今日、養父母は法事のため屋敷にいないことを思い出す。
屋敷までの道程を走りながら、鈴真の身に何かあったことを確信する。どうしてかはわからないが、朔月の中の何かがそう告げている気がした。
屋敷に辿り着き、玄関の鍵を開けて中に入る。屋敷内はしんと静まり返り、人の気配がしない。使用人のひとりくらいは残っているはずなのに、もしやまたサボっているのか、と苛立ちながら階段を駆け上る。この家の使用人はあまり仕事熱心とは言えず、しょっちゅうサボっていることを朔月は知っていた。
「鈴……?」
名前を呼びながら自室へと続く廊下を歩く。自室のドアは開いていた。急いで中に入ると、室内には誰もおらず、ベッドから布団がずり落ちていた。
朔月は鈴真の姿を探して屋敷中を見てまわった。しかし、どこにもその姿はない。
「もしかして……」
朔月には心当たりがあった。使用人が地下にある物置部屋でサボっているのを目撃したことがある。
一階の隅のドアを開けて、地下に続く階段を降りる。昼間でも薄暗い通路を抜け、部屋の近くまで来た時、朔月は足を止めた。
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