89 / 121
※変わりゆく想い③
そしてふたりは高校生になり、蒼華学園に入学した。鈴真は自分と同じケモノ達の中で、少しずつ居場所を確立させていった。
朔月は鈴真を見守るつもりだったが、自分以外の人間と関わることで少しずつ変わっていく鈴真を見て、嫉妬心でおかしくなりそうだった。同じ学園に通う風羽の存在も気がかりだったし、何よりも満月症候群の症状が原因で鈴真が襲われる可能性を考えるとぞっとした。幸い、昼間は体調不良だけで済むようだから、満月の日は学校を休ませればいいと思っていたが、鈴真は元来の真面目な性格のせいで頑なに休もうとはしなかった。
朔月はその日、いつ鈴真の身に何かあってもいいように準備をして、自分の中の鈴真を感じる神経を研ぎ澄ました。
鈴真の身に危機が訪れるとそれが自分に伝わることに気付いたのは、あの事件のあと、鈴真が貧血を起こして屋敷の階段から落ちた時だった。鈴真の怪我は大したことはなかったが、その時学校にいた朔月はまたあの事件の時と同じ感覚に襲われた。頭の中に映像が浮かび、鈴真が階段から落ちるところをはっきりと目撃した。
調べたところ、血の契約を結んだヒトとケモノの間にそういった不可思議な繋がりが生まれることがあるらしく、朔月は鈴真と主従関係になっていてよかった、と心から思った。
そして、学園で迎える初めての満月の日。授業中だった朔月の脳裏に浮かんだのは、保健室らしきところで横たわる鈴真にのしかかる生徒の姿だった。
朔月は教室を飛び出して保健室へ向かい、そこで鈴真を襲っているヒトの生徒を蹴り飛ばした。
生徒が逃げていったあと、涙目でこちらを見つめる鈴真の身体を優しく抱きしめ、「もう大丈夫だよ」と声をかけた。鈴真はなぜか抵抗せず、安心したように息を吐き出して、そのまま意識を失った。
鈴真を抱えて寮に戻り、彼が目を覚ます頃にはもう日が暮れていた。
そして、鈴真の様子がいつもと違うことに気付いた朔月は、静かに息を呑んだ。
満月の夜、鈴真はいつも意識が朦朧としている。そんな中、朔月が鈴真の身体に触れるとうわ言みたいに「嫌だ、触るな」と拒絶するのだ。
だけどその日は違った。鈴真は頬を赤く染めて物欲しそうに朔月を見ていた。鈴真も自分を求めている、と直感的に悟った朔月は、鈴真の気持ちを試すように「どうして欲しいの?」と聞いた。
「……助けて……朔月……」
鈴真は素直に朔月の言葉に応じた。その瞬間、朔月は背筋にぞくぞくと電流が走るのを感じた。
「お願いしますは?」
「……っ、お願いします……」
鈴真の綺麗な青い瞳に、自分だけが映っている。鈴真も、自分に対して欲情している。たとえそれが満月症候群の症状だとしても、朔月は嬉しかった。
その夜、ふたりはとうとう一線を越えた。鈴真の中に自身を突き入れた時、朔月がどれほどの歓喜に打ち震えたか、鈴真は知らないだろう。
最初のうちは恐怖からか嫌がる素振りを見せていた鈴真だが、抜き差しを繰り返すうちに朔月が与える快楽に溺れ、泣きながら朔月の背中にすがりつき、腰に脚を絡めてきた。そして朔月の名前を何度も呼び、朔月の口付けに必死に応えた。
愛おしい、と強く思った。腕の中の美しい少年が、不器用に自分の愛撫に応えるのがいじらしくて、愛しくてたまらない。
ともだちにシェアしよう!