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すれ違い①
「お前、何か隠してるだろ」
鈴真にそう言われた時、朔月は何を言われているのか理解できなかった。手紙のことを思い出したが、鈴真が知るはずもないし、知ったところで彼が自分を問いつめたりするだろうか。
「何も隠してないよ」
朔月はそう言って微笑んだ。手紙の一件はすぐに解決すると思っていたから、悩んでいるというほどのことでもない。むしろどうでもよかった。それよりも、鈴真と一緒にいられる大切な時間を、くだらない話で無駄にしたくない。
「嘘だ」
しかし、鈴真は引き下がらなかった。どうやら怒っているようだ。
「お前はいつもそうだ。僕の中には土足で踏み込んでくるくせに、自分のことになると僕から一線を引く。そんなことされて、好きだから信じろなんて言われても信じられない……!」
一線を引く? 鈴真は一体何を言っているのだろう。手紙のこと以外に何かあるのか、と考えたが、やはり思いつかない。
朔月としては鈴真に一線を引いているつもりなどない。一線を引いているとしたらそれは鈴真のほうではないのか。やはり、鈴真の気持ちがわからないのは、自分がまだ彼を理解できるような立派な人間ではないからだろう。もっと努力しなければいけない。手紙のことになど構ってはいられない。
「何をそんなに怒っているのか知らないけど、鈴が心配するようなことは何もないよ」
鈴真の頭を撫でながら、安心させるように微笑む。
鈴真はそれ以上何も言わなかった。まだ納得していないようだが、今はこれ以上この話を続けたくなくて、彼の手を引いて蒼華宮へと歩き出した。
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