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すれ違い②
だが、その蒼華宮でとうとう出会ってしまった。
「すまない、遅くなった」
──藤市風羽。かつて鈴真の文通相手だった彼は、成長してさらに背が伸び、見違えるほどに大人っぽくなっていた。
鈴真は、風羽を眩しそうに見つめていた。その目を見ていたら、朔月の中にどろどろした真っ黒な何かが広がっていった。
風羽はケモノになった鈴真を嫌悪することはせず、以前と同じ太陽みたいな笑みを浮かべながら、鈴真を受け入れた。鈴真はほっとしたようだったが、詩雨と仲睦まじい様子の風羽を見る瞳は、哀しげに揺れていた。
それを見たら、もう我慢できなくなった。
「鈴、おいで」
鈴真にだけ聞こえるように告げて、彼を私室へと連れ出す。部屋に入った途端、朔月は鈴真をベッドの上に突き飛ばした。
「嬉しかったんでしょ? ずっと会いたかった、大好きな風羽さんに会えて」
朔月の言葉に、鈴真はぎくりと身体を強ばらせた。
──ほら、やっぱり。
「鈴、昔から風羽さんに憧れてたもんね。でも残念だったね、風羽さんは詩雨と付き合ってるんだ。だから、いくら君が風羽さんを想ったって無駄なんだよ」
「……別に僕は、そんなんじゃない……」
鈴真は目に見えて落ち込んでいた。頭の上の獣耳がしょんぼりと垂れ下がっているが、本人は気付いていないのだろう。
「なら、どうしてそんなに泣きそうなの?」
「うるさい……! お前には関係ないだろう!」
鈴真は目に溜まった涙を隠すように両腕で顔を覆った。
──やっぱり、一線を引いているのは鈴真のほうだ。朔月の気持ちを知っていながら、関係ないだなんて口にするのは、ずるい。
朔月は鈴真の両腕を片手で固定し、「そういう態度とるなら、お仕置きしないとね」と言った。自分でも随分と低い声が出たように思う。
鈴真は、これから何をされるのかわかっているようだった。彼は朔月に怯えながら、これから彼に与えられるであろう快楽を予感して、どこか期待に満ちた眼差しをしていた。
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