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誓い①

 それから、朔月は鈴真に触れるのをしばらく我慢しようと思った。それは朔月にとっては地獄のような苦行だったが、この間嫌がる鈴真を無理に犯し、風羽に見せつけたことを少なからず後悔していたからだ。  あれ以来、鈴真はずっと塞ぎ込んでいた。だからしばらくはそっとしておこうと思い、必要以上に彼に触れることをやめた。そうしたら自然と素っ気ない接し方になったが、これまでのような距離感で鈴真に触れないでいるなんて、朔月には無理だった。  しかし、限界はすぐに訪れた。  その日は朝から体調が悪く、最近食欲もなくてろくに食べていなかったせいか、身体がふらふらして足元が覚束ない。  そんな状態で登校してきた朔月に、春音が心配そうに声をかける。 「大丈夫? 顔色悪いよ。無理せずに休めばよかったのに……」 「……鈴に知られたくないんだ」  席に着きながら、朔月は深く息を吐き出した。  鈴真に触れられないストレスでこんなふうになってしまう弱い自分のことを、鈴真には知られたくない。  鞄から教科書を取り出して机の中に入れる。その時、ふと気付いた。いつも机の中に入っていた手紙がない。 「春音、今日手紙きてた?」 「え? そういえば、今日はきてないね。ようやく諦めたんじゃない?」  春音は冬音にも確認するが、彼も「俺のとこにもきてない」と答えた。  春音の言う通り、ようやく諦めたのだろうか。そう思いつつも教室内に視線を走らせ、いつも朔月にまとわりついてくる信奉者グループがごっそりいなくなっていることに気付く。もう始業開始五分前だ。いつも早くから学校に来て予習をしていた彼らが、今日に限って姿がない。そして、今日に限って届かなかった手紙。  嫌な予感に冷や汗が流れる。神経を研ぎ澄ますと、またあの感覚に襲われた。  ──鈴真が、何者かに蹴られている光景が脳裏に浮かんだ。

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