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誓い②
「朔月?」
突然何かに取り憑かれたように立ち上がり、教室を出て行こうとする朔月の腕を春音が掴んだ。
「またなの? こんなにふらふらなのに行くことないよ……今は休んだほうが……」
「僕の身体なんかよりも鈴のほうが大事だ」
そう言って朔月は春音の手を振りほどき、教室を出て走り出した。
いつものように鈴真の気配を追おうとするが、体調不良のせいか上手くいかず、結果学校中を探し回る羽目になった。
だが、体育館付近に来た時に突然感覚が研ぎ澄まされ、鈴真の匂いが濃くなった。引き寄せられるように体育館裏に向かい、クラスメイトの信奉者によって殴られている鈴真を見た時、朔月は烈しい怒りで我を忘れて彼らを蹴り飛ばした。
「こ、神牙くん……!? どうして……っ」
「やっぱりお前らの仕業か。面倒な真似しやがって」
朔月はそう吐き捨てて、無抵抗な彼らの身体をいたぶった。やがて彼らが大人しくなると、倒れている鈴真に駆け寄った。
「鈴、大丈夫?」
鈴真は殴られて顔が赤く腫れ上がり、身体は蹴られた跡だらけで見るからに痛々しい姿だった。朔月はもっと早くに自分が来ていれば、と自分を責めた。
「……大丈夫」
うっすらと目を開けた鈴真が掠れた声で呟く。朔月は詰めていた息を吐き、彼の髪を優しく撫でた。
背後でクラスメイトの醜い叫び声がしたが、無視して鈴真の身体を起き上がらせる。だが、とりあえず保健室に行こうと立ち上がろうとするふたりの前に、クラスメイトが立ち塞がる。
「君のような優秀なヒトにそんな下等生物は相応しくない!」
その時、朔月の中で何かが切れる音がした。
「……うるっせぇな……ヒトとかケモノとか、そんなちっせぇことにこだわってるから、てめぇはクズなんだよ」
舌打ちし、クラスメイトの胸倉を掴んで思いきり殴り飛ばす。
自分と鈴真の邪魔をするものは、何であろうと許さない。種族間の格差なんて、そんなものは自分がこの手でぶち壊してやる。
「僕は鈴がヒトでもケモノでもどっちだっていい。ただ今は鈴がケモノだからケモノの鈴が好きなだけだ。ヒトよりも劣っているから鈴は努力家で真面目だし、お前が醜いと言った獣耳や尻尾は鈴の気持ちを素直に僕に伝えてくれる。僕はそんな鈴を美しいと思う。僕は鈴がケモノだから愛してるんだ」
自分の気持ちをひとつひとつ、大切に噛みしめるように言葉にしていく。それはとても神聖な行為に思えた。改めて、自分は鈴真を愛しているのだと再確認する。
クラスメイトは何も答えず、ただ俯いた。朔月が溜息をついて鈴真を見ると、彼は気を失っていた。その頬は涙で濡れている。
「……愛してるんだ」
誰に言うでもなく、ひっそりと呟いた。
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