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触れ合う心②

 鈴真は安堵の表情を浮かべて朔月を見ていた。朔月は握っていた彼の右手を額に当てて、「ごめん。僕のせいで、傷つけたね」と素直に謝罪した。 「もういい……別に気にしてない。あいつは……」 「君達を傷つけたやつらならもう心配ないよ。今頃退学処分にでもなってるんじゃない? 君のクラスメイトも無事。君ほど酷い怪我じゃなかったから、さっき友達が迎えに来て寮に戻ったよ」 「……そうか」  鈴真はクラスメイトのことを聞いて安心したらしく、頬を緩めた。そのあと無理に起き上がろうとして痛みに顔を歪ませた鈴真をベッドに押し戻して、今は安静にしているように言い聞かせる。 「どうしてあの場所がわかったんだ?」  どうやら鈴真も、なぜ朔月がいつも都合良く鈴真の危機に駆けつけるのか気になっていたらしい。朔月は本当のことを話すべきか迷った。話しても、鈴真には理解されないかもしれない。だけど、もう鈴真に隠し事はしたくなかった。  嫌がらせの手紙のことを話しながら、朔月はふと鈴真が「何か隠している」と問い詰めてきた時のことを思い出した。 「鈴、君……春音から何か聞いてたんでしょ?」  鈴真にあのことを知らせるとしたら、春音しかいない。鈴真は「ああ」と頷き、朔月は鈴真が自分のことを心配してあんなに怒ったのだと今更ながらに悟った。 「……そうだったんだ。君が僕を心配してくれるとは思わなくて、どうして君があんなに怒っていたのかわからなかった。ごめんね」 「……別にいい」  今日の鈴真はいつもよりも素直だ。だからなのか、どうしても期待感が高まってしまう。彼の中の自分の存在が、少しずつ大きくなりつつあるのではないか、と。  朔月は騒がしく鳴り響く心臓の音を聴きながら、鈴真に血の契約によって得た不思議な繋がりについて語った。鈴真は黙って最後まで聞き、やがて朔月に手を伸ばした。 「……朔月」 「ん?」  まだ不安なのだろうか、と思った朔月は鈴真の手を握り、安心させるように優しく微笑みかけた。鈴真は瞳を潤ませて、そっと囁く。 「……お前のそばに、いたい」  朔月は目を瞠って、信じられない思いで鈴真を見つめた。  これまで鈴真に散々酷い仕打ちをしてきた自覚のある朔月は、鈴真が自分を嫌っているのだと思っていた。だから、そんな鈴真が自分のそばにいたいと願い、それを口にしてくれたことが、本当に現実の出来事なのか、夢を見ているのだろうかと思うくらい、信じられなかった。 (……信じても、いいのかな)  信じたい。自分の長年の想いが鈴真の心に届きつつあると、朔月は信じることにした。  自然と笑顔になり、鈴真はそんな朔月を眩しそうに見つめながら、やがて目を閉じた。  いつの間にか、朔月の体調不良は嘘みたいに治っていた。

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