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きみのためにできること①
「神牙、ちょっと来なさい」
授業中、突然教室にやって来た担任が教壇に立つ国語教師に何事か話し、名前を呼ばれた。
何やら嫌な予感がしつつも教室を出ると、担任から「お養父さんが倒れたそうだ。今すぐ病院に行きなさい」と言われた。どうやらかなり危険な状態らしい。
朔月は鈴真のことが気にかかりつつも、担任に促されて病院へと向かった。
病院に辿り着き、養母と合流した。養母は突然の事態に戸惑いつつも、どこか冷静だった。そのことが朔月を余計に不安にさせる。
「朔月。あれは見つかったの」
ふたりで病室のそばの長椅子に腰かけ、養父の治療が終わるのを待っていると、隣に座る養母が呟いた。朔月はどきりと心臓が跳ねるのを感じ、それを悟られないように首を振った。
「……まだ。探してはいるんですが、手がかりがなくて」
「いつまでかかっているの? 何のために高い寄付金を出して蒼華会にまで入らせたと思っているの」
養母の口調がきつくなる。普段は穏やかで優しい養父母が、この話をする時だけは別人のように態度が悪くなる。
「……すみません」
「言ったはずよ。あの子を学園に入学させる代わりに、学園のどこかにある王家の宝を探し出しなさいと」
──王家の宝。そう呼ばれるものが蒼華学園の敷地内のどこかに存在しているらしいと養父に聞かされたのは、いつのことだったか。
かつてのヒトの王……一宮家の先祖にあたる人間によって隠されたという王家の宝は、正体は不明だがとんでもない価値のあるものらしく、多くの人間が追い求め、未だに見つかっていないとされている。
朔月としてはそんな都市伝説みたいなものを本気で欲しがっている養父母が奇妙だった。そして、鈴真の学園への入学許可と引き換えに王家の宝を探せと言われた時、気付いてしまった。彼らはそのために自分を養子として引き取ったのだと。
宝の持ち主であるヒトの王の血を引く朔月には、宝を感知できる能力があるというのだ。朔月は自分にそんな力があるはずがないと思っているが、彼らはそんな眉唾物の話を信じているらしい。
だが、もし朔月の推察が事実なら、彼らは朔月が一宮の人間だと気付いていたことになる。彼らが朔月を養子にしたいと申し出た時は、まだ朔月と鈴真が取り違えられたことは明らかになっていなかったのに、どこでそのことを知ったのだろう。
「朔月。縁談が来ていること、前に話したわね?」
養母の言葉に、朔月は心の中で溜息をついた。
「縁談を受ける気はないと、前にも……」
「お養父さんが大変な時に何を言っているの。こんなことになった以上、もう分家の連中を抑えてはおけないわ。それに、約束したでしょう? あの子を引き取る代わりに、必ず神牙家を継ぐと」
朔月は黙り込んだ。
神牙の分家の連中が、血の繋がらない朔月が本家を継ぐ条件として、分家の娘と結婚するように言っているという話は、以前から聞いている。
鈴真のことを思うと当然結婚などしたくないのだが、夫妻との約束を破ったら鈴真と引き離されてしまうかもしれない。結局、朔月は夫妻には逆らえないのだ。所詮、経済的にも自立していないただの子供なのだから。
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